「謝られても、まったく許せる気がしない」 かつていじめを経験した作家・燃え殻さんが、生きづらい人々に送るメッセージ
6人の同級生に追いかけられ、掃除用具入れの中に
作家・燃え殻が「週刊新潮」で連載するエッセイ「それでも日々はつづくから」が100回を迎えた。小学生のときにいじめの被害者となった燃え殻が、掃除用具入れに閉じ込められた時に祈ったこと、そしていま加害者に対して思うこととは――。
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現実にはタイムマシンはない。ただタイムマシンを心から望んだことが人生に1度ある。それは小学2年生のときだった。
季節は春で、生暖かい風が学校の廊下を吹き抜けていた。僕はその廊下を必死で走っている。追いかけてくる同級生は6人くらいいたはずだ。
階段をほとんど飛ぶように降りると、上履きが脱げてしまう。脱げた上履きに見向きもせず、また階段を飛ぶように僕は降りる。
そして、無人の教室に逃げ込んだ。教室の後方にあった掃除用具入れに、僕は急いで隠れた。狭い掃除用具入れの中で、ギリギリの体勢で体育座りをしたとき、ガラガラと教室の戸を開ける音がした。何人かの怒号が聞こえる。その声は掃除用具入れの前でピタリと止まった。
揺れる狭い空間の中で祈ったこと
「あれ? ここかな?」
しらじらしい声が、掃除用具入れの扉の向こう側から聞こえてくる。そして次の瞬間、扉が思い切り蹴られた。何人もが同時に蹴るので、掃除用具入れは大きく揺れ、ゲラゲラと大声で笑う声がずっと聞こえていた。
僕は揺れる狭い空間の中で、ずっとタイムマシンのことを考えていた。この掃除用具入れがタイムマシンで、僕を未来に連れて行ってほしいと心から祈っていた。「飛べ、飛べ」と心の中でずっと唱えていた。
その先の記憶はない。あの狭い場所から、どうやって出たのかまったく覚えていない。どうしても思い出せない。
SNSで、とある有名アーティストが、過去にいじめの加害者だったことを自ら語っていた記事が、大きく取り上げられていた。それはどう考えても擁護できるような内容ではなかった。その記事自体、僕は前にどこかで読んだことがあった。あったが、どうしても昔の記憶がうずいて、最後まで読めなかった。
そのいじめの記事が、かなり炎上し、正式に謝罪文を出すというところまで発展してしまった。謝罪文には、過去にいじめてしまった被害者に、今後、直接謝りに行きたいというような内容も書かれていた。
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