日テレ「大病院占拠」はコア視聴率1位 若い視聴者は気付かない2つの古典的要素を発見

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40代に合うテンポの良さ

 第2話では人質の1人で病院の清掃員・岩代晋平(小林リュージュ[33])が、女子小学生暴行での服役歴を鬼によって暴露され、さらに今も犯行を重ねていることを認めさせられた。それによって岩代は命が助かり、解放されたものの、社会的生命はほぼ絶たれた。

 人質の言動、鬼と県警の交渉は、鬼たちが用意した動画配信サイトを通じて10万人に観られているからだ。公開処刑である。県警の情報分析官・志摩蓮司(ぐんぴぃ[32])が岩代について「死んだも同然だな」とつぶやいたが、その通りなのだ。

 やはり人質で呼吸器内科医の土佐大輔(笠原秀幸[39])も第3話で罪を認めさせられた。公開処刑された。クラブで違法ドラッグパーティを催した上、過剰摂取で死んだ参加者の死因を心筋梗塞で処理していた件である。土佐は院長の秘書で愛人の石見カナ(中村映里子[34])が殺した感染症専門医・甲斐正美(西原亜希[35])の死因も偽装していた。

 罪を犯した者が、謎の犯人によって相次いで裁かれる。この古典的かつ王道の筋書きを斬新な設定で見せている。うまい。おまけにテンポがやたら速く、ノンストップで物語が進む。スローテンポのドラマを早送りで観てしまう人もいるという40代以下には合っている。

 映像に目を向けると、最新のCGなどが多用されている一方、旧作の名場面を思わせる部分がある。やはり古典の良いところを採り入れている。

 第2話で、武蔵の妻で心臓外科医の裕子(比嘉愛未[36])が、病院3階から転落しそうになった。その時、武蔵は片腕で裕子を掴み、救い上げた。武蔵を見上げた裕子の顔は恐怖と苦痛で歪んでいた。スリルのある場面だった。

 この場面を観てアルフレッド・ヒッチコック監督による名作「逃走迷路」(1942年)のクライマックスを想起した人は少なくないはず。無実の罪を着せられていた男が、米ニューヨークの自由の女神像の展望台から転落しそうになった真犯人を片腕で掴んだ。構図が酷似していた。

 最近ではほとんど見られなくなった構図であるものの、後進の監督たちに影響を与えた名場面だ。CGなど最新技術を駆使している映像の中に組み込むと、新鮮に映る。ヒッチコック作品を知らない若い世代には特にそうなのではないか。

 若い視聴者の間では「鬼の面を被った武装集団は誰が演じているのか」という予想も盛んだ。物語そのものの推理以外に考察する要素を入れたのは技あり。面白い発想にほかならない。

 リアリティはほとんどない。例えば主人公の武蔵は爆風も熱風も不思議とへっちゃらだし、3階から落ちても軽傷で済んだ。下が植垣だったからだそうだ。

 武蔵の口グセは「ウソだろ」であり、絶体絶命のピンチに立たされると口にする。武蔵がなぜか不死身なので、視聴者のほうこそ「ウソだろ」と口にしたくなるのだが、先に言われてしまう。

 もっとも、設定からして真実味の乏しい作品の場合、最初からリアリティを求められていないから得である。また、観る側が現実に戻らない魔法が脚本によってかけられている。ゲーム感覚にしているところだ。ゲームで遊んでいる時は現実を忘れるのと同じである。

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