人的補償で日本ハムに移籍、「5球団競合ドラ1」田中正義は“眠れる才能”を開花できるのか?

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故障への不安

 これほど期待された田中が、プロでなかなか結果を残せないでいる最大の理由は故障である。高校と大学で肩を痛めて離脱した経験があり、プロでも万全の状態で投げられた期間は少ない。

 筆者は、田中の大学時代に単独でインタビューしたことがある。そのなかで、「肩や肘を痛めて明日投げられないようになるかもしれないじゃないですか。そういうことを考えても悔いは残したくありません」(アマチュア野球Vol.40 日刊スポーツ出版社)と話しており、“悲壮感”のようなものを感じた。幸いプロ入り後に、投手生命を脅かすような大けがには見舞われてはいないが、周囲の好評価とは裏腹に、大きな不安を抱えていたことは確かだろう。

 果たして、大学時代に見せていた“輝き”を取り戻すことができるのだろうか。他球団の編成担当者は、以下のように分析している。

「もともと投げているボールは、誰が見ても素晴らしいと思うレベルです。ただ、状態が上がってきたな、と思ったら怪我という繰り返しで、満足に投げられている期間はほとんどなかったんじゃないですかね……。周囲の期待が大きかったので、焦りもあったと思います。ただ、去年の夏場以降はずっと安定していて、一軍で結果を残していました(5試合、5回を投げて防御率0.00)。本来なら一軍でも、あれくらい投げられて、当然という力はあります。田中本人は、(日本ハムで)先発を希望しているみたいですね。いつ投げるか分からないリリーフは、ブルペンで投球練習する負担が大きいので、きちんと間隔を空けて調整する先発の方が、田中にとっては、不安が少ないかもしれません。日本ハムならば、ソフトバンクに比べて投手陣の層が薄いので、十分に活躍できるチャンスはあると思います。キャンプでの調整が順調に進み、去年の後半に見せた投球を、先発でも続けることができれば、一気にローテーションの中心になる可能性もあるでしょう」

新天地での活躍は

 前出の編成担当者が話すように、昨年の田中は、5試合、5イニングと登板の機会は少なかったものの、許したヒットはわずかに2本で、与えた四死球は0、6奪三振と、ほぼ完璧な投球を見せている。

 ストレートは常に150キロを超えており、奪った6個の三振のうち、4個の決め球がストレートだった。これもまた、大きなプラス材料である。このような結果は、日本ハムが田中の獲得に踏み切れた要因と言えるだろう。

 毎年“ドラフトの目玉”と言われる選手は出てくる。しかしながら、田中ほどアマチュア時代にプロを圧倒した選手は、そうそういるものではない。過去にも人的補償で移籍した球団で活躍した選手は少なくないだけに、田中が新天地で“眠れる才能”を開花させてくれることを願いたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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