高橋宏斗「由伸流フォーム改造」に“待った”のウラ事情 中日の“黒歴史”と立浪監督のトラウマ
素直に聞き入れる高橋の危うさ
プロ野球中日のキャンプ序盤、2月3日のことだった。3月開催のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に最年少の20歳で選出された高橋宏斗投手が、ブルペンでの投球練習中、立浪和義監督(53)と深刻な表情で話し込んだ。さるチーム関係者が明かす。
「監督が、クイック投法のように左足の上げ幅を抑えるようにした高橋のフォームの改造に注文を付けた。高橋はオフに山本(由伸投手/オリックス)と自主トレをした。NPBナンバーワン投手との合同練習で感化され、練習にやり投げを取り入れるだけではなく、フォームまで山本を模倣するようになった。実績も年齢も体格も違うのに、形だけ似せたことに危機感を抱いた監督が元のフォームでも投げるよう諭したということ」
憧れの投手を手本とした調整法に水を差された形の高橋の失意は想像に難くない。当日の報道陣への対応はキャンセルとなった。【球人ニキ(たまんちゅにき)/野球ライター】
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高橋は2021年に中京大中京高校からドラフト1位で中日入り。愛知県尾張旭市出身で、根尾昂投手に続く球団期待のご当地選手だ。プロ2年目の昨季、1軍デビューを果たすと、プロ初勝利を含む6勝(7敗)をマーク。最速158キロを武器に奪三振率は1試合当たり10.34と出色の数字だった。
オールスター戦後には八回1死までノーヒットノーランの快投も演じるなど、近未来のエースの呼び声が高い。
「何でも貪欲に吸収しようという意欲が強い。半面、素直に聞きすぎるところがある。相手が実績ある投手ならなおさら、そうなってしまう。立浪監督が山本の猿まねに近いフォームに危うさを感じたのは分かる気がする。WBCに選ばれたのも昨季までのフォームで投げていた高橋。(日本代表の)栗山(英樹)監督も山本のまねをする高橋を選んだつもりはないと困惑していたのではないか」
チーム関係者は立浪監督に、こう理解を示した上で、その背景には球団の“黒歴史”があると指摘する。
「うちはドラフト上位の高校出の投手がなかなか大成しない傾向がある。近年では、高校出に限ると(通算219勝)の山本昌ぐらいで、それもドラフト5位入団で解雇寸前のところから這い上がってきた。ドラフト上位入団で順調に伸びた高卒投手の成功例が少ない」
ともにドラフト1位だった両投手、史上初の1軍デビュー戦でノーヒットノーランを達成した近藤真市は通算12勝、沢村賞にも輝いた今中慎二は通算91勝と短命に終わった。故障に至るプロセスなど、それぞれ事情が異なるとはいえ、終わってみれば期待感ほどの成績を残せなかった。
「高校出ドライチ投手」受難の過去
特に惜しまれた投手は2001年に埼玉・春日部共栄高校からドラフト1位入団した中里篤史(現巨人スコアラー)だった。
「センスは山本昌が『天才』と言うほどだった。投球のほか打撃、走塁の才能にも恵まれ、野球センスの塊と言える選手だった。世が世なら二刀流で活躍していたかもしれない。投手としては前年の00年の高校出ドライチ、朝倉(健太=現中日球団職員)とはモノが違うとさえ言われた逸材だった」(前出のチーム関係者)
希望に満ちた中里の野球人生が暗転したのは02年の春季キャンプだった。チーム宿舎の階段で転倒しそうになった際、手すりをつかんで右肩を脱臼した。投手生命に関わる大けがを負い、以降は故障との格闘が続き、輝きを取り戻すことはほとんどなかった。
「立浪監督は現役時代、こうした高校出ドラフト上位投手の受難を目の当たりにしている。高橋だけはモノにしないといけないという思いは強い」(同)
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