ポストコロナで急回復する観光需要が航空運賃の高騰を招く理由

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エンジン、人手に「不足」の問題が…

 前述のアボロンは「航空需要の急回復で航空会社は『運航可能な機材を確保しうるか』という課題を突きつけられる」と警告を発している。

 新型コロナのパンデミックのせいで旅客機など合計2400機の生産が中断している。このため、機材不足が表面化し、引き渡しの遅延が大量に発生している。

 米証券ジェフリーズによれば、航空機の受注残は世界全体で1万2700機以上に上っており、サプライチェーンの障害などからこれらの航空機が何年も先まで納入されない恐れがあるという。

 大手航空会社は数百機単位でジェット機を発注しており、航空機製造大手の米ボーイングや欧州エアバスはうれしい悲鳴を上げている。

 コロナ禍で大量解雇を実施した2大航空企業は、増産を図るため1万人以上のスタッフを採用する計画をそれぞれ公表しているが、「泥縄」だと言わざるを得ない。

 生産現場で必要なスキルを身につけるには3年程度かかり、雇用を増やしても生産がすぐに拡大するわけではないからだ。

 エンジン不足も深刻だ。

 2大航空企業はエンジンの羽根(ブレード)やエンジンをつなぎ合わせる構造材などの部品を外注しているが、これらの部品を製造する企業数は限られており、急拡大する需要にまったく追いついていないのが現状だ。

 航空会社の人手不足も顕在化している。

 米国では昨年夏からパイロット不足で地方便の運航取りやめが相次いでいる。

 パイロット不足はコロナ前から世界の航空業界にとって頭の痛い問題だった。日本では、中国の航空会社による「パイロットの引き抜き」が起きていた。

 ドイツや英国など多くの国で「パイロット1人制」の導入が検討されている。だが、「安全面で乗客の理解が得られるか」という課題に直面しており、人手不足解消の特効薬になるかどうかは定かではない。

 パイロット以上に難しいのは航空整備士の確保だ。航空会社は争奪戦を行っているが、整備士の給与は低く、勤務条件も劣悪なため、引退者などの「穴」は埋まっていない。

 航空機やパイロットなどの不足で世界の航空会社へのインフレ圧力は高まるばかりだ。

 旅行者はコロナ禍でのディスカウント運賃を享受してきたが、残念ながら、この状況が一変する可能性が高い。

 足元で生じつつある航空運賃の高騰は今後ますます進むのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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