国際指名手配中のタイ元首相が日本へ入国し、警視庁は大慌て…なぜ事前に把握できなかったのか

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トランジットビザを発給

 タクシンとインラックのパスポートは、それぞれ有罪判決が出た時に無効になっていた。

「タクシンは21億ドルの資産を持っていると言われていて、金にあかせてモンテネグロやニカラグア、ウガンダの国のパスポートを所持していました。プライベートジェットを羽田空港に着陸させるために数千万円も支払ったそうです」

 2人は、日本へトランジットビザで入国したという。

「普通の航空券を購入し、モンテネグロの日本大使館でトランジットビザを発給してもらったようです。その航空券は使わず、プライベートジェットで入国したのです。これは厳密にいえば、違法行為です。発覚すればビザの取り消し理由になります。モンテネグロの日本大使館は、国際指名手配されているインラックだとわからなかったのでビザを発給してしまった。当然外務省にも彼らの情報が上っていませんでした」

 タクシンとインラックは、石井氏のパーティーに参加した後、銀座で買い物を楽しんだという。4月1日まで日本に滞在し、その後北京へ向かった。

「警視庁はタイ警察にインラックが石井氏の出版記念パーティーに参加、銀座で買い物したことなどを伝えました」

 国際指名犯がまんまと入国したこともさることながら、この時問題視されたのは、プライベートジェットでの入国方法だったという。

「空港でタクシンやインラックのパスポートはチェックしましたが、荷物はほとんどチェックしなかったそうです。プライベートジェットは、一般的にハイジャックが起こる可能性がないので保安検査はほとんどなく、悪用することも可能です。つまり極端なことを言えば、武器などを日本に持ち込むことも可能なんです」

 プライベートジェットはかなりの金がかかるので、個人ではなく組織や国家ぐるみの犯罪に使われる可能性があるという。

「2019年12月、日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告が関西国際空港からプライベートジェットで秘かに出国したことで、国土交通省は大型荷物の保安検査を義務付けました。ところが検査要員の人手不足で、その後1年もしないうちに従来の緩い検査体制に戻っている可能性があるそうです。今後はプライベートジェットでの入国審査はもっと厳しくする必要があります」

勝丸円覚
1990年代半ばに警視庁に入庁。2000年代初めに公安に配属されてから公安・外事畑を歩む。数年間外国の日本大使館にも勤務した経験を持ち数年前に退職。現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活躍中。「元公安警察 勝丸事務所のHP」https://katsumaru-office.tokyo/

デイリー新潮編集部

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