ドローンビジネスは「特許」から組み立てる――田路圭輔(エアロネクスト代表取締役CEO)【佐藤優の頂上対決】

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事業モデルだけ作る

佐藤 その機体を使うドローン配送の市場はエアロネクストが作るわけですね。

田路 これはシンプルに自分たちでやります。本来は、何もしなくてもビジネスがドライブしていく仕組みが理想ですが、最初にドローン物流の市場を作り出すことは自分たちに課している。

佐藤 それで全国の自治体行脚もされている。

田路 自治体の協力を取りつけて、デポを構え、人を雇い、トラックを用意し、ドローンも使うという形で、数カ所までは直営でやります。つまり、会社が持つ技術をライセンスして製造する会社を確保した上で、その会社が製品を売る顧客もこちらで生み出していく。両方からサンドイッチしていこうというのが、この事業の成功イメージです。でも、その後に配送市場を広げていくのは私たちではない。広げる役割を担う人たちが出てきたら、そこに業務を移していきます。

佐藤 大きな仕掛けですね。事業モデルを構築したら、他の人たちにやってもらう。

田路 やはり大企業が市場に入ってこないと、大きな市場にはなりません。自分で最後まで全てやるという考えはなく、いかに大企業を市場にエントリーさせるかが大事です。私たちは大企業を引きつけるマグネットのようなものです。

佐藤 魅力的な分野ならどんどん参入してきます。

田路 私の事業戦略は、レイヤー構造になっていて、まず知財を作る、これを技術に変える、その技術を製品にする、そしてその製品をサービスにしていくわけです。さらにサービスをプラットフォームにして拡散させる。

佐藤 レイヤーリング(積み重ね)していき、一気に局面を変える。

田路 そうですね。大企業はそうした部分を注意深く見ていて、儲かるとなれば参入してきます。そうしたら、私たちはセットバック(後退)するんです。どんどん引いていって、最終的にはIPが残る。ここで効率良く稼げばいい。これがスタートアップの一番合理的なやり方だと思います。

佐藤 このドローン物流には、大企業だけでなく軍産複合体も引き寄せられてくると思いますね。弾薬を動かすとか、医薬品を運ぶとか、いろいろ応用できますから。日本の場合は、いつもちょっと反応が鈍いところがありますが、三菱重工や川崎重工業などが目をつければ、そこにも大きな市場ができます。

田路 それは私も興味があります。

佐藤 こうした知的財産を核にした田路さんの経営術は、非常に独創的ですね。こうした発想をする経営者は、他にいないのではないでしょうか。

田路 日本のベンチャービジネスでCEOの知財意識が低いのは確かですね。テクノロジーやファイナンス、マーケティングには関心があっても、IPに注目している人って、いないんですよ。だからいろんな社長に話すと、すごく盛り上がります(笑)。

佐藤 そうでしょうね。でも考えてみると、ベンチャーと特許は相性がいい。

田路 その通りです。私がやりたいことは、「いまはない当たり前を作る」ということに尽きます。ドローンが当たり前のようにモノを運び、さらにヒトも乗れるようになる未来を作る。そしてその根幹には私たちの知財があり、利益を生み出し続ける。この形ができれば、起業家として言うことはないですね。

田路圭輔(とうじけいすけ) エアロネクスト代表取締役CEO
1968年兵庫県生まれ。大阪大学工学部卒。91年電通入社。99年米国ジェムスター社と合弁会社を設立し、電子番組表サービス「Gガイド」の普及、市場化に携わる。2005年から12年間同社社長。17年、独立してDRONE iPLABを設立、副社長就任。同年、資本業務提携したエアロネクストに参画、代表取締役CEOとなる。

週刊新潮 2023年2月2日号掲載

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