ドローンビジネスは「特許」から組み立てる――田路圭輔(エアロネクスト代表取締役CEO)【佐藤優の頂上対決】

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佐藤 これは一種の配送革命ですね。今後は、そのやり方を全国展開していく。

田路 何カ所かは、自分たちが直営でやります。ただ、これが私たちのビジネスの最終形態ではありません。私が目指すビジネスは、ヒト、カネ、モノを必要としない経営なんです。自分の脳の中だけで完結する経営を目指している。ドローンでもそうした経営を考えています。

佐藤 どういうことか、詳しく教えてください。

田路 私は知的財産やブランド、ノウハウといった無形資産を重視していて、それを使ってレバレッジを利かせてビジネスをするのが好きなんです。

佐藤 IP(知的財産)ビジネスと呼ばれるものですね。

田路 はい。前のビジネスもそうでしたが、知的財産を生かせば独占化が可能で、大きな利潤を産みます。

佐藤 前のビジネスとはどんなものなのですか。確か電通にいらっしゃいましたね。

田路 はい。学生時代は建築を学び、メディアとしての空間に興味を持ち電通に入りました。初めは広告の仕事をしていましたが、テレビのデジタル化が始まる頃、たまたま私は新規事業開発の部門にいたんですね。

佐藤 地デジに移行する時ですね。

田路 ええ。ご存じの通り、電通は基本的にテレビビジネスの会社です。ですからデジタル化でテレビが大きく変わる中、何ができるか考えろ、と言われたんですよ。デジタル化で変わることは三つありました。一つは高画質、一つは多チャンネル。そしてもう一つが双方向です。前の二つでは本質的に何も変わらない。だから双方向、インタラクティブこそがテレビの新しい部分だな、と見定めて、事業を考えました。

佐藤 確かに双方向というのは画期的ですよね。

田路 そうです。もっともテレビは、家の中で映像をのんびりと見るための機械なので、そこでバンキング(銀行取引)やショッピングをするのは私にはしっくりこなかった。一つだけこれだ、と思ったのは「新聞のテレビ欄」をテレビの中に入れることでした。

佐藤 Gガイドですね。あれを考案されたのですか。もういまはテレビの標準装備になっています。

田路 ええ、これは絶対使われるようになると思いました。それでその特許技術を持つアメリカの会社と電通で合弁会社を作りました。そして2005年から12年間、その社長を務めましたが、ここで知的財産のビジネスを学んだんです。

佐藤 それがドローンにどうつながっていくのですか。

田路 その会社を辞める時、多くの人と会って話をしたんですね。その中に投資家でドローンパイロットの方がいました。私はメディア相手の仕事をしてきましたから、マクルーハンの言う「身体拡張」にはすごく興味があったんです。ドローンが何かといえば、まず目の拡張です。

佐藤 我々は鳥の視点を得ました。

田路 その投資家は、自分は常に空から見ている目を持つようになった、と言うんですよ。歩いていても車を運転していても、自分の目で見ている光景と、上空から見ている映像がシンクロしていると。それに興味を持ち、どう事業化すれば面白いのか、考えた。そこが入口で、まずドローンに関する特許の数を調べてみたんです。

佐藤 特許ですか。

田路 前の仕事も特許を使って、デファクト化、独占化しました。だからそれができるかを調べたんです。そうしたら数千件くらいしかなかった。

佐藤 それは少ないのですか。

田路 普通、あるカテゴリーの特許を調べると、10万件、20万件と出てきます。だから数千件なら、その分野はまだ黎明期にある。ドローン関連で「基本特許」と呼ばれる基礎的で広範囲に影響を及ぼす特許が取れる状態だったんです。

佐藤 それはがぜん勢いづきますね。

田路 そこでまずベンチャーキャピタル(VC)と組み、ドローンに関する特許の会社を作りました。VCが投資したドローン関連の会社の特許を管理し、お金にする会社です。

佐藤 特許がドローンビジネスの入口だったのですね。

田路 私は特許から未来を予測するやり方が好きです。ドローンも同じです。それでどこが産業のヘソになるか考えると、「機体」なんですよ。そして機体の安定に必要な重力制御技術を持っていたのが、その中の一社だったエアロネクストでした。ですからこの会社を経営すればドローン産業が創れると考え、資本提携して半年後に社長になったんです。

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