ドローンビジネスは「特許」から組み立てる――田路圭輔(エアロネクスト代表取締役CEO)【佐藤優の頂上対決】

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 各地で実証実験が進み、間もなく事業化されるドローン配送。その先端を走るエアロネクストは、既存の物流と組み、山間部など過疎地のラストワンマイルをドローンで担う仕組みを作っている。現在の物流の弱点をカバーし、同時に地域の問題をも解消するこの計画の背後には、独創的な「特許経営」があった。

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佐藤 昨年12月に改正航空法が施行され、有人地帯で目視せずにドローンが飛ばせるようになりました。このニュースは、テレビや新聞で大きく扱われましたね。

田路 ドローン規制には、飛行区域が有人か無人か、操縦者の目視が必要かどうかで四つのレベルがあり、その最終段階であるレベル4が解禁されました。ただ、あの改正で銀座や渋谷の空を飛べるようになったわけではありません。またその必要もないんですよ。そもそも都市で飛ばせるといっても、現実には機体の認証が簡単ではありません。

佐藤 では、今回の改正が意味するところはどこにあったのでしょう。

田路 国家として、ドローンを盛り上げます、儲ける産業にしていきます、というメッセージですね。免許を作り、制度を整え、これまで一回一回行う必要があった煩雑な申請許可を、認証を受けた機体と有資格パイロットには包括許諾することが可能になった。ただ、飛ばす場所は都市部ではない。地域のドローン物流を市場化する、ということです。

佐藤 実際は報じられている内容とだいぶ違うのですね。田路さんが経営するエアロネクストは、ドローン物流のトップランナーで、すでに過疎地の山間部で、荷物を運ぶ実証実験をされています。

田路 2020年に山梨県の小菅村と協定を締結し、翌年からドローン配送を始めました。その後も北海道の上士幌町や東川町、新潟県の阿賀町、茨城県の境町などでもドローン配送の実証実験を行っています。

佐藤 事業化間近ですね。エアロネクストは、どんな形でドローン配送をしているのですか。

田路 村や町の入口や中心部に「ドローンデポ」という荷物の集積地を作ります。ここにさまざまな運送業者から荷物を集めるんですね。そしてデポから、私たちが山中の過疎地へ配達します。

佐藤 一般の運送業者と組んで、特定の地域内の配送だけをドローンで行う。

田路 はい。基本的に物流業界は、集積地で儲けて、非集積地では赤字という構造になっています。宅配トラックの過疎地での積載率は5%ほどで、もう空気を運んでいるのと変わらない。そこへ“ポツンと一軒家”のような配送先が出てくると、1時間に12個運べたものが、1個しか配送できなくなる。だからどの運送業者も困っていたんです。

佐藤 確かに通販などで東京都配送無料とあっても「ただし離島を除く」と表示されていることがありますね。物流において、同一料金では割に合わない地域がある。

田路 過疎地域では、運送業者のみならず、バスや地元の商店、自治体などがかなり無理をして、さまざまなサービスを提供しています。でもバスやトラックの運転手は不足し、地域は人口減の上に高齢化し、自治体は市町村合併で広域化しています。このままでは地域経済がもたないんですね。

佐藤 そこでドローンの出番となる。

田路 最初は消去法で過疎地に入ったのです。いくらすごい技術を持ち、ドローンで新市場が生み出せると意気込んでも、飛ばす場所がなかった。飛ばせる場所を探したら過疎地に行き着いた。

佐藤 最初から都市部で実験というわけにはいきませんよね。

田路 そうしたら、そこに地域が抱える大きな課題があった。

佐藤 いわゆるラストワンマイル問題ですね。最後の区間に一番コストがかかる。

田路 だからそこだけドローンを使って届ければいいのです。私たちもトラックで間に合うところは、「シェアリング・デリバリー・ビークル」という自社のトラックで届けています。トラックでは時間が掛かるポツンと一軒家にだけドローンで運んでいるのです。

佐藤 トラックでの配送とドローンでの配送を組み合わせている。

田路 その通りです。

佐藤 集荷した荷物のうちどのくらいをドローンで届けているのですか。

田路 1%くらいですね。荷物の99%はトラックで運んでいます。

佐藤 ドローンをどんどん飛ばしているわけではないのですか。

田路 ドローンの会社だから、ドローンだけで配送をやる、という発想で事業を組み立ててはいないんですよ。

佐藤 でも、いずれはその比率は逆転するのでしょう。

田路 いや、フィフティ・フィフティくらいにはなるかもしれませんが、逆転というより、ほどよいバランスに落ち着くのだと思います。

佐藤 ということは、エアロネクストはいわゆる物流の会社で、秘密兵器としてドローンを持っている、という感じですか。

田路 その通りです。スタートアップ企業は、自社の技術で世界を変えるとか、ディスラプト(既存のルールを変える)とか、よく言います。でも私は違って、新しい市場は既存の技術と新しい技術の融合でこそ生まれてくる、と考えています。古い技術を新しい技術に置き換えるという発想では、事業としてうまくいきません。ドローンも、運ぶ必要のあるものだけ運べばいいのです。

佐藤 なるほど、その視点はすごく重要ですね。すると荷物をたくさん集めることが必要になりますが、荷物は採算が取れるほどに集まるのですか。

田路 集まります。一般の配送業者が困っているエリアでやるわけですから、どの業者も頼んできます。それに現地に行くと、配送業者が扱っていない荷物が、運ぶ荷物の何倍もあることがわかるんですね。

佐藤 酒屋さんやお米屋さんなど、地元で配送しているものですか。

田路 ええ、そこも高齢化が進んで運べなくなっています。

佐藤 では「ドローンデポ」はどんな場所に作るのですか。

田路 廃校になった小学校などを利用しています。かつて学校だった場所は住民のハブ(中心)ですから、物流拠点として合理的です。

佐藤 通学路という形で道路も整備されていたでしょうからね。

田路 自治体としても、廃校利用ということで合意形成しやすい。基本的に私たちは地域の資産をできるだけ利用するという発想で事業を進めています。

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