妻とも不倫相手とも別れがたくて… 自分の“ゲスなひらめき”を一生後悔するアラフィフ夫の悶え

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弱った心に入り込んできた「恋」

 弱った心に入り込んできた「恋」。それは巧憲さんが無意識に求めたものかもしれない。相手は仕事で接点のあった他社の女性、芙美恵さんだった。巧憲さん40歳、芙美恵さん33歳のときである。

 仕事帰りにひとりで一杯やろうと界隈のサラリーマンが集まる居酒屋に行くと、たまたま芙美恵さんが友人と来ていた。少したって「お先に」と帰っていった芙美恵さんだが、10分もたたずに息せき切って戻ってきた。

「どうしたんですかと聞いたら、『友だちを巻いて来ました。酒井さんとお話ししたくて』と。焦って戻ってきたのがなんともいえずかわいくて……。それからふたりで飲んだんですが楽しかったですねえ。あんまり楽しくて飲み過ぎちゃって、外に出たら思いのほか、足に来ていて参りました。タクシーで送っていくと彼女に言われたんですが、いや、僕が送っていくからとごちゃごちゃ言い合って、結局、彼女のマンションの前で一緒に降りてしまいました」

 よろよろする巧憲さんを見て、芙美恵さんがクスッと笑った。そして自分の部屋に招き入れると、水を飲ませ、熱いお茶をいれてくれた。

「寒い日だったのでありがたかった。お茶を飲んでいるうちに今度は眠くなって。最悪ですよね。夜中にふと目が覚めたら、絨毯の上に寝ていて、毛布と布団がかけられていました。寒くないようエアコンがうっすらついていて」

 枕元に水が用意してあった。それを飲んでいると、部屋着に着替えた彼女がやってきた。

「大丈夫ですか、と心配そうでした。前に仕事関係者とグループで飲んだときは、そんなに飲んでいなかったのにと言われて、ちょっと心にひっかかることがあったから、ごめんねと謝りました。彼女は『そこでよかったら朝まで寝てください』と。追うわけにもいかないので、そのまままた寝ました。久しぶりに爆睡できたんですよね。妻に連絡もしなかったから、結婚以来、初の無断外泊だったけど、それもどうでもいいような気がしました」

 心が疲れていたのだと思うと彼は言った。翌朝起きると、彼女はキッチンで朝食をとっていた。勧められて、彼も焼き魚と海苔と卵焼き、味噌汁という旅館のような朝食をとった。朝ご飯はしっかり食べるようにしているんですと、芙美恵さんは照れたように言った。

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