男性より女性に筋トレが必要な理由は? 要介護期間を短くするための「スマート・エイジング」実践術

ドクター新潮 ライフ

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10年間は介護等のお世話になる

 まずは、日本の現状を理解するところから始めたいと思います。

〈それは、75歳から自らの生死を選択できる制度――果たして、是か、非か〉

 これは昨年6月に公開され、カンヌ国際映画祭でカメラドール特別表彰を受けて話題を呼んだ、倍賞千恵子さん主演の「PLAN 75」の惹句です。

 75歳以降に自ら死を選択すると、それが早ければ早いほどインセンティブを得られ、逆に国家は延々と高齢者の面倒を見なければならないコストを減らせるという架空の状況を設定し、日本社会が抱える問題点を描いた作品です。

 このような制度を是とする人はほとんどいないでしょう。実際、監督自身もそう語っています。一方、この作品が今の日本の問題点を鋭く突いているのは間違いありません。社会の高齢化に歯止めがかかる気配がないからです。

 平均寿命は延びる傾向が続いています。他方で、要介護状態にならず自立的に生活できる健康寿命との差はさほど変わりません。両者の間には男性で9年、女性で12年の差が存在します。簡単に言えば、この10年前後の期間は介護等のお世話になりながら生きていくことになるわけです。

「加齢=嫌なもの」ではない

 少子高齢化が進む一方の日本では、単純計算で65歳以上の高齢者が毎年50万人増え、逆に15~64歳の労働人口は毎年70万人減ります。つまり、要介護者が増加し、介護者が減少し続ける。そのため、社会全体で考えると、介護の需給バランスが崩壊するのは必然といえます。

 また、個人の側から考えても、最後の10年前後を施設や病院のベッドの上で過ごす人生を自ら望む人はいないでしょう。

 従って、社会、個人の両面から、いかにして「10年」を限りなく「0年」に近づけられるかが今の日本の喫緊の課題といえます。自分が100年生きたいかどうかは別にして、誰もが100年生きる可能性がある。それが人生100年時代の本当の意味なのです。

 そこで大事になってくるのがスマート・エイジングです。アンチ・エイジングにつきまとう「加齢=嫌なもの」という考え方を改め、ウイスキーが熟成し、バイオリンやギターが経年により部品の木材から水分が抜けて音の響きが良くなっていくように、エイジングのプラスの側面にスポットを当てて賢く年を重ねる。つまり、毎日細胞が死に、新しく生まれ変わる人間において、「加齢とは単なる老いではなく人間の成長である」というスマート・エイジングの考え方が、「PLAN 75」が注目される今の時代こそ必要だと思うのです。

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