パワハラで辞める“若い漁師”が多発…就業支援団体が「見て見ぬふりはできない」と講じた対策とは

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ハラスメント対策を怠らないのが必須条件

 もちろん、漁師になって数年で辞めてしまう若者すべてが、漁船上のパワハラが原因というわけではない。船上で漁師たちのプライバシーに配慮したり、作業も交代制にするなど働きやすい環境作りに努力しているオーナーも多い。辞める原因についても「コミュ力に欠ける新人漁師の方にも、何らかの落ち度がある場合も少なくない」と静岡県焼津市の水産高校の教諭はみる。ただ、冒頭で紹介したような強烈な罵倒や、酒の強要に加え、長期間船上で「シカト」したり、悪口を吹聴したりといったことで、新人漁師が下船する例は後を絶たないという。

 そうした中で、全国漁業就業者確保育成センターは、これまで条件面や水産会社のPRなどを前面に出していた漁師募集について、昨年4月から「ハラスメント対策を怠らない」「新人漁師を組織全体で育成する」といった条件を初めて追加。これらの条件を満たす漁業会社のみを求人の対象とし、情報をまとめた冊子を水産高校などに配布。さらに、ウェブサイト「漁師.jp」に掲載して漁師を募集している。

 同センターの取り組みについて、漁業者団体からは「根本的な解決には至らないのではないか」といった声も聞かれるが、「今まで触れられてこなかったパワハラ対策の第一歩。今後は新人漁師へのヒアリングや、サポーター同士の意見交換の場を設けるなど、できる取り組みから進めていくことで、若者が夢に描いた漁師を長く続けられるようにしていきたい」(馬上事務局長)と話している。

「匠の技」は、教わるのではなく「見て盗め」などと言われる。だが、現状の漁師不足を受け止め、将来の漁業を思えば、洋上での苦言や放置は昭和の時代とは違って決してプラスにはならないということを、漁業関係者が理解しなければならない。

川本大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長。1967年、東京生まれ。専修大学を卒業後、91年に時事通信社に入社。長年にわたって、水産部で旧築地市場、豊洲市場の取引を取材し続けている。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)。

デイリー新潮編集部

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