フィリピン国民の関心は「ルフィ」ではなく「美人実業家」射殺事件 背景にエリート軍人との秘密の関係
殴られた跡が痛々しい写真
その複数の写真が撮影されたのは2022年4月。自宅ベッドとみられる場所で、横たわるイヴォネットさんが自らの顔を接写したものだった。
彼女の顔右半分には、眼のまわりや頬に殴打されたと思しきあざが残っている。内側が切れて出血している下唇を見せてもいて、加えて投稿に〈ヘス・ドゥランテがこれを私にやった〉とのコメントをつけているのだ。
事件によってこの写真が掘り返され、件の「ヘス・ドゥランテ」とは、ダバオ・デ・オロ州にある陸軍1001歩兵旅団の司令官で陸軍准将の地位にある、ヘスス・デュランテIII准将であることが明らかにされた。このためイヴォネットさんを負傷させたデュランテ准将が、殺害にも関与しているとの見方が一気に広がったのである。デュランテ准将はドゥテルテ前大統領の大統領警護隊の隊長も務めたこともある、陸軍のエリートだった。
関与否定するも拘留され司令官解任
当初デュランテ准将は、マスコミを通じ事件への関与を全面的に否定した。「私の名前が取り沙汰されているのはイヴォネットさんのFacebookにあった傷害を受けた写真が理由だろう」と認めたうえで「彼女は友人であるが、例の写真はその後彼女自身が削除し、私が負わせた傷害ではないと明らかにしている」と殺害はもちろん傷害にも関与していないと主張。さらに「イヴォネットさんの殺害は悲しいことで遺族に哀悼の意を示す。正義が下されることを祈る」と事件の第三者であるとの姿勢を強調してもいる。
しかしイヴォネットさんのFacebookは現在、問題の「暴行写真」が掲載されている。彼女の友人らの手によって再アップされたもので、さらにはデュランテ准将の写真も載っているのだ。
政府が特捜チーム設置
事態を重く見た政府は1月2日に特別捜査チームを設置し、警察や軍と協力して本格的な真相解明に乗り出すことを決定した。アバロス内務相はダバオに飛び、1月6日に地元関係者と共に遺族と面会、哀悼の意を示すとともに事情を聞く異例の対応を見せた。
警察による捜査によって、事件前にイヴォネットさんが友人に漏らしていた話から彼女が既婚者である准将と愛人関係にあったこと、軍の機密情報を入手した彼女が准将を脅していたことなどが明らかにされた。殺害にデュランテ准将が関与していた疑いが濃厚に。
そして1月11日、特捜チームはデュランテ准将を殺害事件の黒幕とし、陸軍軍人8人の事件への関与を認定したのだった。軍も捜査に乗り出し、准将の身柄を拘束した上で旅団長の職を解任、ルソン島マニラ近郊タギッグにある陸軍本部に身柄を移送して拘留することとなった。
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