台湾有事が引き起こす第2次朝鮮戦争 米日の助けなしで韓国軍は国を守れるのか
韓国人が「見捨てられ」を恐れ始めた。台湾有事となれば北朝鮮が韓国を挑発する可能性が一気に高まる。その時、米国と日本は台湾支援にかかりきりになっているのだ。「一人で戦え」と突き放される隣国は核武装に走ると韓国観察者の鈴置高史氏は読む。
奇襲で空軍機の半数が壊滅
鈴置:韓国で台湾有事がようやく話題になりました。
――やっと、台湾を助けるつもりになったのですか?
鈴置:いいえ。韓国人は台湾が中国の支配下に入ることは気にもとめません。半導体産業で競合関係にある台湾が攻撃されれば、韓国の得になる――と考える人さえいます。
韓国人がハタ、と気付いたのは台湾有事の際、北朝鮮が韓国に挑発を仕掛ける可能性がぐんと増すことです。北朝鮮をそそのかして第2戦線を開かせれば、米国の台湾支援がおろそかになると中国が考えるからです。でも、その時は米国の韓国防衛が手薄になっている。韓国は単独で北朝鮮に対峙することになります。
韓国の「新たな危機」を訴えたのが朝鮮日報の楊相勲(ヤン・サンフン)主筆の「[楊相勲コラム]我が国の戦闘機の50%が消滅した後に戦争が始まるだろう」(1月19日、韓国語版)です。
米CSIS(戦略国際問題研究所)が1月9日に発表した中国による台湾侵攻ウォー・ゲーム「The First Battle of the Next War」を参考に「第2次朝鮮戦争」では、米韓側の優勢を担保してきた空軍力が封じ込められる、と警告を発しました。ポイントを訳します。
・[このウォー・ゲームでは]中国軍は侵攻時、最初にグアムと日本の米空軍基地にミサイルの洗礼を浴びせる。米空軍は平均200機内外の戦闘機を失うが、その90%が離陸もできず地上で破壊される。
・台湾空軍は初回のミサイル攻撃でほぼ半分の戦力を失う。台湾空軍の基地の防衛は韓国軍よりも堅いという。北朝鮮の奇襲・南侵も中国と同様に韓国の空軍基地に対する大量のミサイル攻撃で始まる。今のままなら、被害は台湾以上であろう。
・我が空軍は最大の対北抑止力だ。その半分が最初のミサイル攻撃で失われるとすれば衝撃的で恐ろしいことだ。北朝鮮はそんな攻撃が可能なミサイルを育て上げた。
米空母も対艦ミサイルで撃沈
――米空母による航空優勢は期待できませんか?
鈴置:空母も頼れなくなった、と楊相勲主筆は訴えました。このウォー・ゲームでは、第7艦隊の空母2隻が中国のミサイル攻撃で撃沈されます。
第2次朝鮮戦争の際も、中国が衛星情報を使って北朝鮮に米空母の位置を教え、北朝鮮は現在開発中の対艦ミサイルで攻撃する、と楊相勲主筆は予想しました。
「第1次朝鮮戦争」では空母艦載機による国連軍地上部隊への近接支援が功を奏しました。これがなければ国連軍は共産軍によって朝鮮半島から追い落とされていた、というのが通説です。ところが、ミサイルの発達によって「第2次」ではその手が効かないのです。
なお、楊相勲主筆は中国が台湾に侵攻した場合、韓国は中立を守る、との前提で記事を書いています。それはCSISのウォー・ゲームも同様です。
ただ、台湾有事が朝鮮半島有事を引き起こす可能性が高いと見る軍事専門家が多い。在韓米軍が台湾支援に回れば、中国にそそのかされなくとも北朝鮮は対南挑発への動機をぐんと増すからです。
楊相勲主筆も台湾有事の際に、在韓米軍が手薄になることを懸念しています。このウォー・ゲームの以下のくだり(61ページ)を「米軍は韓国内の戦闘機の半数を他の地域に動かして運用するのが最善としている」と要約して引用しました。
・The project assumed that because of the pressing nature of the conflict with China the United States would release two of its four squadrons in South Korea. However, because of the continuing threat from North Korea, the other two squadrons would remain in South Korea for deterrence.
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