夕食時に「鮭かなんかない?」と言ってしまったばかりに…アラフィフ夫を苦しめる14歳年下妻の“逆DV”と計画的離婚調停

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突然の調停

 一方で、恭司さんと由佳里さんは変わらず友だちとしていい関係を築いていた。そして2年前、いきなり家庭裁判所から調停の知らせが職場に届けられた。

「郁美が夫婦関係を調停してほしいと、家裁に訴えたようです。同居しているのに、どういうことなんだろうと思い、帰宅して聞くと、『あなたに浮気をやめてほしいから、第三者に入ってもらいたくて』と。だから浮気なんかしていないと何度も伝えたのに。もう一緒に暮らすのは疲れた。そのとき思わずそう言ってしまいました」

 いいわよ、別居しましょう。私と子どもたちがじゅうぶん暮らせるだけのお金をちょうだい、そうしたら別居してやるわよ。郁美さんはそう叫んで恭司さんに殴りかかってきた。気持ちがささくれ立っていたこともあり、恭司さんは郁美さんの手首をつかんでねじり上げた。痛い痛いと泣き叫ぶ郁美さん、そして「いいかげんにしろよ」と脅した恭司さんの声はしっかり録音されていた。

 それからは完全に家庭内別居となった。調停に入ると、郁美さんのつけていた日記や録音が提出された。日記には夫に暴力をふるわれた妻の心理が事細かに書かれていたという。

「はめられたとわかりました。離婚して慰謝料をとろうという魂胆だろうと思っていたら、妻は調停が進むにつれ、離婚はしたくない、もっと家族を大事にしてくれればいいんですと言い出した。わけがわからなかった」

 そして調停は終了。婚姻状態は継続することになった。恭司さんだけが調停員たちから奥さんの気持ちを考えてと説教された。2年前のことだ。

「それで少しは気持ちがすっきりしたんでしょうか。暴力は激減しました。でも僕を無視したり、ときどき嫌味を言ったりするのは続いています。今も由佳里さんとの関係を疑ってもいる。僕は今でも『疲れてない?』『いつもありがとう』ときちんと妻のことは労っていますよ。でも妻はちゃんと向き合って話そうとはしない。いっそ、由佳里さんでなくても誰かと浮気してしまおうかと思ったこともありますが、それはそれでめんどうなことになりそう。だからときおり風俗に通っています。風俗の女の子のほうが妻よりずっと優しいから」

 最後の一言が妙にせつない響きをもっていた。

 妻への献身を旨としていた恭司さんだが、結婚生活も8年たち、この間の嵐のような日々にさすがに疲労困憊なのだと打ち明けた。子どもたちのメンタルにも注意を払わないといけない。いっそ父子家庭になったほうがいいと思うが、妻の演技力をもってすれば、裁判をしても彼が親権を得るのはむずかしいだろう。彼もそのあたりはわかっているようだ。

 子どもたちがしっかり自分の意志をもてるまで、今の状態を続けるしかないと言う。身体的暴力が減っただけでも「以前よりは少しマシ」だと苦笑し、彼は重い足取りで夕闇に消えていった。

 ***

 こうした夫婦のトラブルは、片方だけの言い分を鵜呑みにしてはいけないことが多い。とはいえ、郁美さんの行動は目に余る。亀山氏に相談する恭司さんの口ぶりからは、完全に郁美さんへの気持ちが冷めてしまっていることが窺える。

 いまの膠着状態を脱するにあたってのネックは8歳と6歳の息子たちの「親権」ただ一点にあるようだ。

 通常、親権の決定にあたっては、15歳以上であれば裁判所は子供の意見を聞かなければならないという。そうでなくても、10歳前後であれば、やはり子供の意思が尊重される傾向にある。何事も感情的になる郁美さんが、子供たちから「良き母親」と思われているとは想像しにくい。あと3年も耐えれば……という助言は、恭司さんの慰めになるだろうか。

 ただでさえ、恭司さんの汚点を「でっちあげ」てくる妻である。足元をすくわれないように振舞わなくてはならないだろう。風俗店に通ってる場合ではないのは、間違いない。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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