夕食時に「鮭かなんかない?」と言ってしまったばかりに…アラフィフ夫を苦しめる14歳年下妻の“逆DV”と計画的離婚調停

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 全国におよそ300カ所ある配偶者暴力相談支援センターへ寄せられる相談件数は年々増加傾向にあり、令和3年度は12万2,478件に上った。相談者の内訳は女性が11万9,331件と圧倒的に多いが、男性からも3,147件の相談があった。

 配偶者(事実婚や別居中の夫婦,元配偶者も含む)から「身体的暴行」、「心理的攻撃」、「経済的圧迫」又は「性的強要」のいずれかについて、一度でも受けたことがある女性は25.9パーセント、男性は18.4パーセントというデータもある(男女共同参画白書 令和3年版)。

 いわゆるドメスティック・バイオレンス(DV)の被害者には男性もいることがわかる。男女問題を30年近く取材し『不倫の恋で苦しむ男たち』などの著作があるライターの亀山早苗氏が今回話を聞いたのも、妻からの“逆DV”に悩む男性だ。

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「最初に妻から暴力を受けたのは、第一子である長男が生まれてすぐのころでした」

 橋田恭司さん(48歳・仮名=以下同)は、少し疲れたような表情でそう言った。40歳のとき14歳年下の郁美さんと結婚、長男は8歳、次男は6歳になった。

「29歳のころ婚約者にフラれたんです。新居まで用意して、彼女は一足先にそこへ引っ越して……。それなのに僕が越す前に、家財道具を売り払って逃げてしまった。ある日、僕が行ったらもぬけのから。何が起こったのかわかりませんでした。彼女がほしいというから50インチのテレビも買ったし、家電も最先端のものを揃えました。それを全部、売られてしまい、あげく連絡がとれなくなった」

 2年つきあって婚約した彼女だった。だがあとから彼女の友人たちに確認してみると、彼女には「ヒモ」のような男がいたという。

「彼女が婚約したというから、てっきりヒモ男とは別れたと思っていたけど、やっぱり別れられなかったみたいと話してくれました。彼女のほうがベタ惚れだったからと明かす人もいました。彼女は自分の友人を僕に紹介したがらなかった。僕の友人には会わせろとしつこかったんですけどね。実際、彼女から借金を申し込まれた友人もいます」

 彼は大手企業に勤める会社員だ。まじめが取り柄と自分でも言うほどで、入社以来、無駄遣いもせずにコツコツ貯めてきたお金を彼女のために景気よく使った。婚約者は、恋愛に疎かった彼が唯一、心から愛した女性だったのだ。当時を振り返ると、「振り回されただけだった」そうだが。

 恭司さんは新居を解約、元いた1LDKのアパートに戻った。その後、彼は二度と恋などしないと誓ったという。

「完全に女性不信に陥っていました。女友だちはいたけどグループで飲みに行くだけ。恋愛などしたくなかった」

 だが30代半ばになると、周りの友人の大半は結婚していた。子どもの写真を見せられたり、招かれて遊びに行くと友人の妻から温かくもてなされたり。自然と彼も結婚したいと思うようになっていった。その願いがかなったのは、職場に派遣としてきていた郁美さんとの出会いだった。

「郁美は僕のいる部署のアシスタントでしたが、仕事が手早く、よけいなおしゃべりをしないタイプ。一緒に仕事をしていく上では最高のアシスタントでした。彼女の契約が満了して辞めることになったと聞き、あまりに残念だったのでこれまでの慰労会をしようと思い立ち、食事に誘ったんです。部内では慣例的に派遣の人に歓送会などはしていなかったので、僕ひとりの思いつきです」

 つまりは歓送会を言い訳に彼女を食事に誘ったというわけだが、彼は「下心などいっさいなかった」と断言する。もともと恋愛などするつもりもなかった。人として、一緒に仕事をしてきた仲間として、彼女の最後の出勤日にお疲れさまと言いたかっただけだ、と。

「会社から費用が出るわけではありませんから、他の社員を誘うのは気が引けた。だから僕ひとりで誘ったんです。彼女は喜んでくれました」

「行くところがない」と泣き出した

 14歳も年下の女性と食事をすることに躊躇がないわけではなかったが、とにもかくにも彼女のこれまでの尽力を慰労したかった。ところがなぜかそのふたりきりの食事会で意気投合してしまった。

「ハッと気づいたら、彼女の終電が終わっていた。彼女、家が遠いんですよ。僕のほうはまだあったけど置いて帰るわけにもいかない。どうすると聞いたら『橋田さんのところに泊まる』って。その日は彼女がベッドに寝て、僕は床で寝ました」

 朝起きると、味噌の香りが鼻をくすぐった。二日酔いの朝にはこれですよ、と出してくれた熱々の味噌汁に彼の心がぐらりと揺れた。その日、会社から帰ると、彼女はまだいた。

「それから居着いてしまったんです、彼女。これはまずいと思う気持ちと、このまま一緒に暮らしてもいいかもという気持ちがないまぜになっていましたね。数日後、とにかく一度自宅に帰って、改めてふたりのことを考えようと言ったら、彼女が泣き出した。『行くところがない』と。彼女の両親は離婚していて、彼女は母親に引き取られたけど、最近、母に新たな男性ができた、その男性が彼女を性的な目で見るから帰りたくないと言うんです。義憤にかられた僕は、だったらここにいてもいいよと言いました。すると彼女、『ごめんなさい。ありがとう』とはらはら涙をこぼした。結婚しようかという言葉が口から飛び出してしまいました」

 彼女の顔がパッと明るくなった。女性が自分と一緒にいることで笑顔になるなら、そしてこんな素敵な笑顔を見られるなら、結婚も悪くないと彼は思った。婚約者に裏切られた傷が癒えた瞬間だった。

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