カリスマ「豊田章男」社長交代の衝撃 “EV劣勢”と資源高でトヨタは「国内生産300万台」を死守できるか

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 販売台数で世界首位を走るトヨタ自動車のトップが14年ぶりに交代する。「100年に一度」といわれる大変革期に突入した自動車業界にあって、逆風を跳ね返しつつ業績を回復させた“カリスマ社長”交代劇の裏側と、次期社長を待ち受ける課題の実像に迫った。

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 1月26日、トヨタ自動車は創業家出身の豊田章男社長(66)が4月1日付で代表権のある会長に就任し、後任に佐藤恒治・執行役員(53)が昇格する人事を発表した。

「章男社長はリーマン・ショック後の2009年6月、佐藤次期社長と同じく53歳で社長に就任。当時、トヨタは71年ぶりの営業赤字に陥り、その後もアメリカでのリコール問題や東日本大震災などの難局に直面した。しかし章男社長は陣頭に立って逆境を乗り越え、14年3月期には営業利益が2兆円を超えるまでに業績を急回復させました。22年の販売台数も3年連続で世界首位に立つことが確実な情勢です」(全国紙経済部記者)

 章男社長は退任理由について「デジタル化や電動化などを含めて、私はちょっと古い人間。“車屋”を超えられないのが私の限界」などと語り、後任の佐藤氏を「若さと仲間がいる。車づくりの現場で必死に努力してきた人だ」と評した。

 佐藤氏は早大理工学部を卒業後、92年にトヨタ入社。ハイブリッド車「プリウス」の部品開発などに携わり、スポーツカーブランド「GR」などの責任者を経て、現在は「レクサス」担当部門のトップを務める。「章男社長に近く、社内でも本流を歩んできた人物」(トヨタ関係者)とされる。

原材料費の負担増「1兆7000億円」

 実は章男社長の退任時期について、トヨタ社内の一部では「2024年頃が有力」と見る向きもあったという。

 自動車業界に詳しいジャーナリストの井上久男氏が話す。

「昨年6月の株主総会で、“次の後継者”について株主から質問が飛んだ際、章男社長は“人選やタイミングを考えております”と一歩踏み込んだ発言をし、社長交代を検討していることが窺えましたが、さすがに23年の交代はないと思っていました。24年であれば、『中興の祖』といわれた第5代社長・豊田英二氏の在任期間を超えて歴代最長となるため、それを花道に勇退して財界活動に専念すると見ていました」

「世界トップの自動車メーカー」という呼称に加え、今年度も営業利益2兆4000億円(通期)を確保する見通しの“不沈艦”トヨタだが、足元では厳しい情勢に晒されていたという。

「ロシアのウクライナ侵攻の影響などで昨年8月、トヨタは原材料費の負担増が1兆7000億円に膨らむと発表。またインフレや半導体不足などの影響も重なり、稼ぎ頭である北米事業の営業利益(22年4~9月)は前年同期比で84%も減益となり、先行きには不透明感も漂います」(井上氏)

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