「東京は地図アプリがあっても迷う街」 作家・実石沙枝子が語る東京の難しさ

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世界のスケールの大きさに意識を持っていかれ…

 とにかく、東京の街を行くあいだ神経張り詰めまくりのわたしだが、ふとした瞬間、今目にしている人の群れは東京の、日本の、世界の、ほんの一部なんだということを思い出して圧倒される。目に映る、地元の何倍もの人混みを作る全員に思考があり、感情がある。彼らはそれぞれの目的地を目指してすれ違う。そして、その人生が知らないところで絡まったり、解かれたりしているんだ。

 ――ということを考えるせいで、東京よりも世界のスケールの方に注意力が偏り、自分の現在地と目的地の位置関係を見失う。最終手段として通りすがりの人に道を聞くと、不審者を見る目を向ける人、親切に教えてくれる人、わかりませんと答える人、さまざまだ。東京の人は分母が大きいから、冷たい人もあたたかい人も、わたしのような田舎者も大勢いるんだろう。そう思うと、東京もたいしたことがないような気がしてくる。

 つい気が大きくなって、雑踏を勘で進む。なんとなくで横断歩道を渡るせいで、地図アプリが示すルートから外れる。

 そうやって人は道に迷うんだよな。うん、知ってる。

実石沙枝子(じついし・さえこ)
1996年生まれ。作家。『きみが忘れた世界のおわり』(講談社)で第16回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞。

デイリー新潮編集部

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