「東京は地図アプリがあっても迷う街」 作家・実石沙枝子が語る東京の難しさ

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初めての渋谷で「田舎者丸出し」

『きみが忘れた世界のおわり』(講談社)で第16回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞しデビューした、作家の実石沙枝子さん。静岡県出身の彼女が、スマホを片手に東京の道に迷うとき、目に入るたくさんの人々を見て考えることは――。

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 生まれも育ちも静岡な都会っ子なんていないけど、あえて言わせていただこう。田舎者である。

 幼いころは、東京=ディズニーランドだと思っていた。そんなわたしが東京をある程度正確に認識したのは、小学校高学年のころのこと。親に、はじめて渋谷へ連れて行ってもらったのだ。

 当時のわたしにとって渋谷とは、ティーン向けファッション誌に出てくる憧れの地だった。国内の都市というより、竜宮城や天竺と同列の認識だった気がする。そんな渋谷を目にした高揚はとてつもなかった。スクランブル交差点にはめまいがするほどたくさんの人が入り乱れ、大量の看板がわたしを見下ろしている。109には本物のギャルがいる。渋谷やばい、東京やばい! めっちゃ街!! 今思うと、清々しいほど田舎者丸出しの感想だ。

地図があっても理解できない

 そんな田舎者は二つの新人賞で奨励賞を受賞したこともあって、この1年ほど東京へ行く機会が例年と比べて多かった。東京には大きな書店があり、観光地があり、美術館があり、あれこれおもしろそうなものがある。さすがは都会だ。これからも用事を作って出かけ、都会を堪能したいと思っている。そのためには東京をいくらか掌握する必要があるが、これが難しい。なにしろ、わたしは方向音痴なのだ。

 方向音痴でも、地図アプリがあれば大丈夫。と思っていたが、地図があってもそれを理解できなければ意味がない。わたしは地図の解読中、よく前後左右に混乱する。ナビ機能もGPSがときどき不具合を起こすので信用できない。

 街をさまよい駅に着いたとしても、戦いはつづく。東京の主要駅はとても広く、出入口がいくつもあるのだ。そもそも電車の路線が把握しきれないほど多い。歩く道、電車の路線、駅の出口。どれかひとつでも間違えれば東京の藻くずだぞ、と意気込むが、たいていなにかを間違えて慌てる羽目になる。

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