二人合わせて歯が3本の「きんさん・ぎんさん」はなぜ長生きできた? 健康長寿の新常識は「舌が命」
人間だけが抱える、誤嚥や窒息のリスク
この0.8秒の切り替えにおいても、のどの奥まで伸びている舌が中心的な役割を果たしていて、舌が衰えると切り替えがうまくできずに嚥下障害を引き起こします。そして、誤嚥性肺炎や窒息事故につながってしまうのです。なお、わずか0.8秒の短い時間で気管を閉じて食道を開く切り替えを行っているのは、約6千種いる哺乳類の中で人類だけです。神業と引き換えに人間だけが誤嚥や窒息というリスクを背負っているのです。
話す時に舌が大事な役割を担っているであろうことは何となく分かっていても、これまで見てきたように、かんで、それを飲み込む際にも舌が歯以上に重要な働きをしていることを、多くの人は自覚できていないのではないでしょうか。ぜひ、きんさん、ぎんさんの例を胸に刻んでいただければ幸いです。
ここまでの話で、私たちの健康長寿に舌はとても大きく貢献しており、その健康を保つことがいかに重要であるかお分かりいただけたと思います。
なぜ舌は衰える?
舌の健康を維持するためには、まずは舌をはじめとする「口の老い」を意識することが肝心です。では、その老いはどうすれば自覚できるのでしょうか。次の八つの現象が増えたら要注意です。
・食べこぼす。
・むせたり、誤嚥したりする。
・誤って舌や頬をかんでしまう。
・ほうれい線が濃くなる。
・のどぼとけが下がる。
・食後などに、口に水をふくんでうがいした時、吐き出した水に食べかすが多く残っている。
・一緒に食事をしている人に比べて食べるスピードが遅い。
・話が聞き取りにくいと言われるようになった。
これらはいずれも、舌や口周りの筋肉が衰えたことなどによって生じる現象なのです。
それではなぜ、舌は衰えるのか。忘れがちですが舌も筋肉ですから、他の筋肉同様、加齢に伴い自然と衰えていきます。しかし、他の筋肉と違うのは、衰え方がやや緩やかである点です。握力や脚力と比べると、舌圧(舌のパワー)は衰える速度が遅い。おそらく、つかむ、歩くといった行為よりも、食べるという口の機能のほうが、最終的に生命を維持する上で重要だからではないかと思われます。
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