“門外不出”の高級カンキツ「愛媛38号」は、なぜ「中国産」としてカナダで勝手に売られているのか

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日本発のブランド農産物は軒並み外国産

 男性は、農研機構が開発したシャインマスカットが中韓に流出し、栽培されていると知っていただけに、流出を知って「やっぱり」と腹落ちした。それと同時に、「高級品として売れるなら、なぜ日本では市場に出していないのか。もったいない」とも感じた。

「バンクーバーでは、不知火(デコポン)、富有柿、ふじリンゴなど、日本発の農産物をバンバン売っています。売れるということは、商品力はあるのかなと思います」

 ところが、自身の生活圏で国産(日本産)を目にすることは、ほとんどないという。日系スーパーであれば国産を扱っているかもしれないが、ふだん利用する大手スーパーには、まず置いていない。日本発のブランド農産物の産地は、中国や米国、韓国などである。

 ただ、愛媛38号を見かけた数日後、男性は珍しく国産の農産物を目にすることになる。温州ミカンがスーパーで山積みされていたのだ。しかし、表面に傷がついているものが多く「そんなに高い値付けではないですが、買いませんでした」。

 日本生まれのブランドカンキツが中国から輸入され、高値で売られる。かたや国産ミカンは、価格が安く品質が良くない――。男性がバンクーバーで目にしたこの状況は、国産が抱える問題の縮図になっている。

カナダという巨大市場を失った日本

 カナダは長らく、国産カンキツの最大の輸出先だった。カンキツの生産量がピークに達した1970年代には、2万トンを超えるミカンをカナダに輸出しており、これは輸出量全体の8割を超えていた。

 カナダへの輸出の歴史は、優に100年を超えている。「クリスマスオレンジ」として、クリスマスの時期に国産ミカンを買い求めるという習慣は、現地ですっかり定着していた。

 ところが、カンキツの輸出量は近年急速に減っている。2011年に2165トンだったのが、21年に209トンと、10分の1以下に落ち込んだ(公益財団法人中央果実協会「世界の主要果実の貿易概況2022年版」より)。全輸出量に占めるカナダ向けの割合も、2011年の8割から、21年の1割へと急落してしまった。

 カナダ向けが減ったぶん、輸出量全体もしぼんでいる。2011年に2645トンだったのが、21年に1856トンと、10年で3割減った。日本はカナダという巨大な市場を失ってしまったのだ。

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