“門外不出”の高級カンキツ「愛媛38号」は、なぜ「中国産」としてカナダで勝手に売られているのか
日本はこれまで図らずも、中国の果樹産業を大いに盛り立ててしまった。中国では日本生まれの果物が「甘くておいしい」と人気で、手っ取り早く日本から新品種を持ち帰り、産地化することが続いてきたからだ。研究段階のカンキツが流出し、開発者のあずかり知らぬところで産地化され、さらには輸出される。そんな事態まで起きているようだ。【山口亮子/ジャーナリスト】
バンクーバーの春節彩る日本生まれの中国産カンキツ
「なんなのこれ……?」
バンクーバー在住の日本人会社員の男性は、ある中華系スーパーのカンキツ売り場で思わず立ち止まった。中国の旧正月・春節を目前に控えた1月中旬のこと。中華系の人々の間で幸運をもたらす果物としてカンキツが多く消費される時期だけに、さまざまな商品が山と積まれている。男性が目をとめたのは、「愛媛38号」と書かれた箱詰めだ。愛媛産かと思いきや、天井から吊り下げられた商品説明には「CHINESE」と大書してあった。
化粧箱には、春節らしい縁起のいい文字や絵柄がちりばめられ、まん丸なカンキツのイラストが描かれている。中身が見える展示用の箱には、一つずつネットに包まれた丸いカンキツが納まっていた。近くで売られているポンカンやネーブルオレンジとは、価格が一桁違う。いかにも高級品という見た目に、男性は「愛媛のブランドが海外ではそんなに強いのだろうか」と驚きつつ、なぜ中国産に愛媛と冠してあるのか、いぶかしく思った。
しかし、その疑問は写真をSNSにアップしたことで氷解する。投稿を見た人から、愛媛県から中国に流出した品種らしいと指摘されたからだ。
愛媛38号は、名前から連想される通り、愛媛県が開発し、その研究所内にしか存在しないはずのカンキツだ。しかし、中国での報道によると、1998年に日本を訪れた研究団が30以上の“新品種”とともに持ち帰り、栽培に成功した。皮が薄く、果汁が多いことから「果凍橙(ゼリーオレンジ)」という愛称が付けられ、“フルーツのトップスター”と称されるほどの人気を誇る。
育てやすく、栽培適地が広いため、各地で増産されてきた。供給過剰による値崩れが起きており、新たな需要獲得のために輸出までされているのだ。
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