今からでも見たい冬ドラマ三選 「ブラッシュアップライフ」が異色のタイムリープものである理由

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「100万回 言えばよかった」(TBS、金曜22時)

 冬ドラマで唯一の本格的な考察ものである一方、ラブストーリー、ファンタジーものでもある。コメディ風味も加えられている。これだけ混ぜたら、パンクしてしまいそうだが、きちんと調和している。

 主人公・相馬悠依(井上真央[36])の交際相手で洋食店のシェフ・鳥野直木(佐藤健[33])が突如として幽霊になってしまった。

 2人はともに34歳。中学2年生の時に同じ里親の元に預けられた。20年間にわたって没交渉だったものの、2年前に再会し、交際を開始。直木は悠依の34歳の誕生日である2023年1月13日にプロポーズするつもりだったが、その日に幽霊になった。

 直木が見えて、話も出来る人間は神奈川県警先浜署の刑事・魚住譲(松山ケンイチ[37])だけ。直木が魚住に憑依することもある。

 直木はなぜ幽霊になったのか? 買い物依存症の高原涼香(近藤千尋[33])が殺された事件が、何らかの形で関係しているのは間違いない。

 事件は同1月12日に起きた。直木はやはり同じ里親の元で暮らしていた2学年上の尾崎莉桜(香里奈[38])の連絡先を涼香に尋ねようとしていた。

 直木は里親の広田勝(春風亭昇太[63])から「莉桜ちゃんに返して欲しい」と、500万円を預かっていたので、莉桜と会わなくてはならなかったのだ。このカネがどういう性質のものかは分からない。

 直木は1月13日の午後2時までは生きていた。洋食店で子供食堂を催していた。次に気づいたら、同9時。その時は幽霊だった。7時間の間に何があったのか。

 最終的なテーマは何度も登場する名作絵本『100万回生きたねこ』に隠されているに違いない。

 絵本で主人公のねこは最愛の白いねこが死んでしまうと、100万回泣いた後、自分も息絶えた。

 だが、悠依は第2話でこう言い、ねこの生き方を否定した。過去の回想場面だった。

「(大切な人には)100万回泣いたら、元気でピンピン生きていてほしい」(悠依)

 もっとも、いざ最愛の直木が幽霊になると、悠依は泣き続けている。描かれるのは愛する人を失うことによる激しい喪失感と、そこからの再生なのではないか。誰もが経験する永遠の別離による悲しみからの再出発である。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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