梨泰院雑踏事故から3カ月  「韓国人記者」が明石歩道橋事故を直接取材 遺族宅で目にした「絶対に忘れられない」光景とは

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捜査結果に対するジョン記者の分析は

 ソウル警察庁の特別捜査本部は、1月13日に73日間の捜査を終え、梨泰院がある龍山(ヨンサン)警察署長、龍山区役所長、龍山消防署長など23人 を送致した。18日には、当時の現場責任者の元龍山警察署署長と元元龍山署112状況室長を拘束起訴し、龍山署女性青少年課長など3人を在宅起訴した。

 これらの捜査結果についてジョン記者は不十分な点を指摘する。

「行政安全部の長官、ソウル市長、警察庁長は嫌疑なしとなり、『とかげのしっぽ切り』『セルフ捜査』という批判が出ています。検察がもっと厳しく捜査するかが焦点になっています。これとは別に、国会での国政調査(国会議員たちが各機関に資料を提出させたり聴聞会をすること)で、龍山警察署長はソウル警察庁に機動隊を要請したが拒否されたと言いました。しかし、ソウル警察庁長は『交通機動隊1個の要請のほかは受けていない』と言いました。さらに、与党議員たちは政府の責任を軽くしようとし、野党議員が事故の日にドクターカーに乗って現場に行ったことに問題が集中するなど、真相究明につながった国政調査だったかは疑問です」

 さらに、「行政安全部のイ・サンミン長官は、警察局を通じて警察を指揮・監督すべき地位にいるのに、事故のあと『自分にはそういう権限がない』と主張しています。事故直後には『警察官を予め配置して解決できるような問題ではなかった』と言って批判されました。12月11日には国会で解任建議が通過されたのに、いまだに解任されていません。大統領の側近であるだけに、この人の去就も継続して議論になると思います」と話す。

 ユン・ソンニョル大統領の対応についてはどうか。

「大統領はご遺族たちが哀悼行事を開催した日に中小企業の行事に行って杯を購入しながら 冗談を交わすなど、露骨に事故とは距離を置く態度です。事故当日の警備体制については、大統領が居所を龍山に移したので、集会やデモなどから大統領を守るため警官がそっちに集中し、梨泰院の警備が薄くなったのではという指摘があります。この点についても、いまだ十分に明らかになっていないと思います」

 そしてジョン記者は「ご遺族たちは独立的な調査機構を求めており、明石歩道橋事故での事故調査委員会が参考になると思います。2014年に起きたセウォル号沈没事故の時は、ご遺族たちが『お金を儲けようとしている』とか『政治的』などと誹謗中傷を受け、孤立しました。同じことが起きないように、できるだけのことをしようと思っています」と抱負を語った。

 ジョン記者は同志社大学に留学していたことがあり、日本語のレベルは相当に高い。シン記者はドイツに留学経験があり英語も堪能だった。とはいえ、裁判用語など専門的な部分もあり、大阪から通訳のオ・ソノクさんが来てくれていた。取材最終日、ジョン記者とシン写真記者を神戸の拙宅に泊め、関空まで送ると、ジョン記者は別れ際に感極まって泣き出した。筆者は事前にメールで関係者を紹介すると約束していたが、取材がうまくいくか心配だったのだろう。韓国に娘が2人増えた気持ちだ。

 明石での取材を終え、「2つの惨事の物語」と題する13ページにも及ぶ大特集が『時事IN』に掲載された。シン記者が撮影した「想の像」の写真が表紙を飾る。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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