ニュートラルな仕組みでインフラを維持管理する――加藤 崇(フラクタ会長)【佐藤優の頂上対決】
インフラの「民主化」へ
佐藤 問題を解きたい、という加藤さんの姿勢は、人間的な魅力になっていると思います。そこには家庭での教育が感じられますね。
加藤 それはあると思います。家は貧しかったのですが、母はお嬢さん育ちでした。母方の祖父は北海道滝川出身で、北海道大学農学部を卒業して高等官として農林省(当時)に勤め、その後、鳥取大学教授になります。
佐藤 官僚の娘さんなのですね。
加藤 母は中学から大学まで学習院で、祖父が鳥取大に赴任した時には秘書として付いて行った。その後、父と結婚したものの、父の起業が失敗して離婚します。それで貧しい暮らしになるのですが、家には本が溢れていましたし、母の言葉遣いや人との接し方は一流でした。そこで育ったことは非常に大きいですね。
佐藤 家庭で醸成されたものは、行動ににじみ出てきます。
加藤 祖父は非常に優秀だったそうです。著書もあるし、テレビにも出ていた。でも、北海道の神童と呼ばれた彼が常々口にしていたのは、官僚になるなら東大法学部でないと出世はできない、人生の半分は実力だけども半分は運だ、ということでした。日本には日本のシステムがあり、そこにさまざまな限界がある。僕がアメリカに渡ったのは、祖父の影響もありますね。
佐藤 加藤さんは最近、ホール・アース・ファウンデーション(WEF)という財団での活動も始められました。一般市民に呼びかけ、マンホールの写真を集めて、破損状況を把握する。これも斬新なアイデアです。
加藤 マンホールを撮影して投稿するとポイントがもらえるゲームで、これによって各地にあるマンホールの破損状況や摩耗状態を把握し、行政を助けます。つまりインフラの維持管理を「民主化」するわけです。
佐藤 どのくらい進んでいるのですか。
加藤 まず2021年8月にアプリ「鉄とコンクリートの守り人」のキックオフイベントとして「マンホール聖戦in渋谷」を開催しました。この時は渋谷区内にあるマンホール全1万基の写真が3日間で撮影されましたね。
佐藤 何かを集めたい、コレクションしたいという欲求を刺激した。
加藤 現在はそれを「TEKKON」というアプリに発展させ、2022年9月にまずクローズド版を、10月にはパブリック版をローンチ(サービス開始)しました。もう5万5千人のユーザーがいます。日本で約1500万基あるマンホールの約1割、150万基が既に撮影されています。
佐藤 これは水道分野以外にも応用できそうですね。
加藤 実は引き合いがすごいです。すでに北陸電力と「電柱版」を始めました。乗り遅れるとまずいという気持ちがあるのか、他の電力会社からも引き合いが来ています。普通、大会社にはベンチャーからアプローチするもので、大会社からベンチャーに来ることはまずない。それが逆転したんです。
佐藤 私は、ベンチャー経営者の問題は政商化しやすいことだと考えているんです。そもそも最大のロールモデルは三菱財閥の岩崎弥太郎ですし、近年も規制緩和の中で事業が成立してきた経緯があるでしょう。でも加藤さんのやり方は、まったく違いますね。
加藤 僕はニュートラルであることを大切にしていきたいんですね。フラクタの目的は水道にニュートラルな尺度を持ち込むことでした。WEFも自発的な参加者によるニュートラルな活動です。
佐藤 物理と同じですね。その法則はニュートラルで、どこであっても成り立つ。
加藤 その通りで、中立性、普遍性を事業にも求めていきたいです。
佐藤 加藤さんには「感化」の力もありますね。お話をうかがっていて、この人と一緒に仕事をしたいと思わせる何かがある。だから今後も、さらに大きな仕事をされていく気がします。楽しみにしています。
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