痩せている人ほど早死に? カロリー摂取量増加で健康増進 老けないための「多様食」とは
「粗食信仰」
事実、1985年に当時の厚生省はバランスのよい食事を促すために「健康づくりのための食生活指針」を提唱し、「1日30食品を目標に」とのスローガンを掲げましたが、今、この指針をもとに食生活を送っている人はあまりいないと思います。
「30品目なんて多すぎる」といった批判もあったようで、2000年に策定された指針では、「30品目スローガン」は消失してしまいました。やはり、絵に描いた餅の指標、ガイドラインでは意味がないのです。
では、研究所時代に私たちが提唱したDVSとはどんなものなのか。その紹介に入る前に、「高齢者と食」について詳しく見ていきたいと思います。
飽食の時代なのに、いや飽食の時代だからこそなのかもしれませんが、現代の日本には「粗食信仰」とでも呼ぶべき健康観が存在します。白米ではなく玄米、肉ではなく魚、油っこいものより豆腐といった淡泊な食事のほうがいいという健康観です。
確かに、先ほど説明した通り、さまざまな生活習慣病の呼び水となる肥満を避けるべき若い人では、「飽食」は健康を損ねかねません。しかし、高齢者は異なります。
「痩せている人」の生存率のみ低いという研究結果
研究所時代、65歳以上の高齢者千人超を対象に8年間の追跡調査を行ったところ、BMI値に関して興味深い結果が出ました。
BMI値が高いほうから「太っている人」、「少し太っている人」、「少し痩せている人」、「痩せている人」の4グループに分類して比較すると、追跡8年後の生存率は「痩せている人」だけが明らかに低く、残りの3グループではほとんど違いがなかったのです。
また、栄養指標をもとに分析した結果、最も栄養値が高いグループと最も低いグループを比べた場合、後者の死亡リスクは1.5~1.65倍であることが分かりました。
さらに、心血管疾患の死亡リスクは、高栄養グループと比較して、低栄養グループはその2.5倍にも達します。
こうしたことから導き出されるのは次の事実です。
「栄養状態がよい高齢者はその後の生存率が高い」
「栄養状態が悪くなりすぎると死亡リスクが高まる」
つまり、元気で長生きする人ほどしっかりと食べ、たっぷり栄養を取っているといえるのです。近年、若い人の「草食傾向」が指摘されていますが、実は高齢者ほど草食系を避け肉食系であるべきなのです。
食欲は生命力。
考えてみれば当たり前のことかもしれませんが、「健康常識は全世代共通でひとつ」という誤解、そして「粗食信仰」によって、現代の高齢者はこのことを忘れがちであったと思います。
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