母親殺人の動機が「スマホの使い方」? 研究者が警鐘を鳴らす「子供とスマホの危険な関係」
1月16日、静岡県内で40代の女性が13歳の娘に刺殺されるというショッキングな事件が起きた。娘は動機について、「スマホ」が関係している旨を供述していると伝えられている。
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この家庭でどのようなトラブルがあったのか、詳細はまだ不明だが、スマホの使い方を巡って親子が衝突することは珍しくない。子供のスマホ依存に悩まされているのは、世界的な現象である。
東京都が、ネットやスマホの悩みを受け付ける窓口として開設している「こたエール」の相談事例を見ると、子供のスマホ依存に関する切実な悩みが数多く寄せられていることがわかる。親との取り決めを破ったのでスマホを取り上げたら暴れた、といったケースも珍しくないようだ。
スマホ依存の問題を大きく世に知らしめたベストセラー『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン著 久山葉子訳)には、「最新のドラッグ」としての側面についての解説が多く書かれている(以下は『スマホ脳』をもとに再構成したものです)。
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起きている時間の3分の1がスマホ
(スウェーデンでは)7歳児のほとんどがインターネットを毎日利用し、11歳は実質全員(98%)が自分のスマホを持っている。ティーンエイジャーは1日に3~4時間をスマホに費やしている。睡眠、食事、学校や保育園への移動を除けば、残る時間は10~12時間。この時間の3分の1以上、子供たちはスクリーンを見つめているのだ。
当然ながら、これはスウェーデンだけの現象ではない。英国の調査でも、子供とティーンエイジャーは毎日6時間半、スマホやタブレット端末、もしくはパソコンやテレビを観ている(90年代の半ばは3時間だった)。別の調査によると、米国のティーンエイジャーは毎日9時間をインターネットに費やしている。世界中からこんな統計が報告されてくる。大人の場合、画面ばかり見ていると知能が犠牲を払わされるのはわかっている。では、子供や若者にはどんな悪影響があるのだろうか。それをこれから見ていこう。
子供のスマホ依存
「バカンスは楽しかった?」
夏休みに1週間家族でマヨルカ島へ行き、帰ってきたばかりの友人に尋ねた。
「うーん……天気はすごくよかったし、ホテルも素敵だった。それでもあまり楽しいバカンスにはならなかった」
彼女はそう答え、旅行中は子供ともめてばかりだったことを話してくれた。何もかも、子供たちがスマホばかり使うせいだ。
「食事中くらいスマホやタブレットをしまいなさい」と言うと口論になり、最終的には別の部屋に置いてくるよう強制する羽目になった。それでも子供たちは、ホテルの薄い壁越しに聞こえてくるスマホの振動音ばかり気にしていた。
「こんなにケンカしたわりには、結局何も一緒にしなかった。違う部屋に置いていても、子供たちはスマホのことばかり考えていて」
彼女はあきらめきった様子でそう言った。
脳にはいくつもの領域とシステムがあり、同時進行で働くこともあるが、衝突してしまうこともある。立食パーティーでポテトチップスのボウルの前に立つと、脳内のあるシステムが「ボウルの中身を全部食べてしまえ」と呼びかける。同時に、別のシステムがブレーキをかける。もうすぐ水着の季節だということを思い出させ、「全部食べたら恥をかくぞ」ともささやく。これらのシステムは同じ速度で発達するわけではない。額の奥にある前頭葉は衝動に歯止めをかけ、報酬を先延ばしすることができるが、成熟するのが一番遅いこともわかっている。25~30歳になるまで完全には発達しないのだ。
つまり、ポテトチップスを全部食べちゃダメだと言ってくれる脳の部分は、10代の頃はまだ割と無口なのである。一方、ポテトチップスを全部食べてしまえと背中を押す部分は、この年代ではちっとも静かにしてはいない。
衝動にブレーキをかける脳内の領域は、ポテトチップスを我慢させるだけではない。スマホを手に取りたいという欲求も我慢させてくれる。この領域が子供や若者のうちは未発達であることが、デジタルなテクノロジーをさらに魅惑的なものにしてしまう。結果は見ての通りだ。レストランでスマホばかり眺めている子供。学校でも。バスでも。ソファでも。親にスマホを取り上げられて泣き叫ぶ子供。議論と言い争いが永遠に続くのだ。
よくスマホを使う人は衝動的になる
私たちは皆、こんな考えと格闘する。
「お皿の上のケーキを全部食べなければ、この夏はスタイルが良いまま過ごせるかもしれない」
「パーティーに行かずに家で勉強していれば、いい仕事に就けるかも」
将来もっと大きな「ごほうび」をもらうために、すぐにもらえる「ごほうび」を我慢するのは非常に重要な能力だ。実際、それができるかできないかでその子の人生がどうなるかだいたいわかるという。マシュマロをすぐに1個もらうより2個もらうために15分待てる4歳児は基本的に、数十年後に学歴が高くいい仕事に就いている。
つまり、自制心は人生の早い段階で現れ、将来性にも関わってくる──と解釈できる。しかし報酬を先延ばしにできる力は生まれたときからあるわけではなく、生活環境の影響を受けるし訓練で伸ばすこともできる。
それでは、デジタルライフは自制心にどのような影響を及ぼすのだろうか。複数の調査でわかっているのは、よくスマホを使う人のほうが衝動的になりやすく、報酬を先延ばしにするのが下手だということだ。だが、それは、衝動的な人がスマホをよく使うだけなのでは?
ここでも、ニワトリと卵のどちらが先かという永遠の問いにぶつかり、その点を明らかにしようとした研究者たちがいる。数年前の実験で、スマホを使っていない被験者数人にスマホを持たせた(今ではスマホを持っていない人を見つけるのは至難の業ではあるが)。知りたいのは、報酬を先延ばしにする能力がスマホを使い始めることで変化するのかどうかだった。そして、まさにその通りになった。3カ月スマホを使用したあと、一連のテストを行い、報酬を先延ばしにするのが前より下手になっているのがわかった。
報酬を先延ばしにできなければ、上達に時間がかかるようなことを学べなくなる。クラシック系の楽器を習う生徒の数が著しく減ったのもひとつの兆候だ。ある音楽教師にその理由を尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。
「今の子供は即座に手に入るごほうびに慣れているから、すぐに上達できないとやめてしまうんです」
学校でのスマホ──敵か味方か?
2016年に私の著書『一流の頭脳』がスウェーデンで刊行された数週間後、ある学校の校長から「うちの高校で講演をしてもらえませんか」というメールをもらった。講堂で講演をしたのだが、ざっくり言って半数の生徒が途中でスマホを見ていた。自分の講演が聞くに堪えないせいだ、と私はがっかりした。しかし校長はこうとりなした。
「全然、まったく逆ですよ。生徒たちがあんなに熱心に聞き入るのを見たのは久しぶりです」
「でも、半分くらいの生徒はスマホをいじってたでしょう」
「ええ、確かに。だけど、普段教室でどんなふうだか知ってますか? 全員がスマホをいじっていて、先生たちは生徒の注意を引くのに非常に苦労しているんです。前に勤めていた小学校では、休み時間に外で遊ぶ子供はいなかった。スマホを手に座ってるだけで」
帰り道、私は生徒たちが授業中にスマホをいじることについて考えた。私が学校に通っていた当時、歴史の先生は生徒が授業中にゲームボーイをするのを絶対に許さなかっただろう。仮に大きなポータブルテレビを引きずってきて映画を観ていたとしたら、数学の先生もそれを見逃しはしなかっただろう。あらゆる予測に反して先生たちがゲームボーイやテレビを許可していたら、私は学校で何を学べただろうか。
現在、多くの学校が授業中のスマホ使用を禁止している。個人的には当然だと思うが、反対意見もある。学校でスマホを使った場合の影響、その研究結果は何を教えてくれるのだろうか。まず、教室にスマホがなければ、子供たちはもっとノートを取るだろう。米国の研究者がある授業で子供たちを観察したところ、スマホを持っていない子供のほうがよくノートを取っていた。それも、かなり。その子たちのほうがよく学んでもいた。後で授業の内容を質問すると、スマホを持っていた子たちよりも明らかによく覚えていた。
勉強するときに紙を使うこと自体にもメリットがあるのだろう。ノルウェーの研究者が小学校高学年のグループの半数に紙の書籍で短編小説を読ませ、残りの半分にはタブレット端末で読ませた。その結果、紙の書籍で読んだグループの方が内容をよく覚えていた。同じ小説を読んだのにだ。特によく覚えていたのは、話の中でどういう順番で出来事が起こったかだった。考えられる説明としては、脳がデジタル端末のメールやチャット、更新情報などがくれるドーパミンの報酬に慣れ切ってしまっているからというものだ。脳が文章に集中するよりも、報酬がないことを無視するのに貴重な処理能力を費やしてしまい、結果として学びが悪くなるのだろう。
スマホ追放で成績アップ
手で書くほうが学べるのだから、教室内にスマホを持ち込まないほうがいいのは当然だ。しかし、やはりひとつの研究結果だけでは証拠にならないので、複数見てみよう。ある研究チームが、スマホが学習に及ぼす影響について100件近くの調査を行い、これ以上ないくらいはっきりとした結論が出た。
「スマホを使いながらの学習だと、複数のメカニズムが妨げられる」
つまり、子供も大人もスマホによって学習を妨害されるという結果だった。同時に研究者たちが指摘しているのが、他の人よりも大きく影響を受ける人がいる点だ。
100件以上の研究が行われ、その大半が明確にスマホの学習妨害を示唆しているのに、この手の研究は曖昧で不自然だと思われることがある。子供や大人がどのように物事を学ぶのかを調べるために、無作為なグループに分けて心理テストをさせるのだが、それが現実とはかけ離れているような印象を与えるのだ。
教室からスマホを追い出せば、本当は何が起きるのだろうか。英国ではロンドン、マンチェスター、バーミンガム、レスターにある複数の学校でスマホの使用を禁止した。生徒たちは朝スマホを預け、学校が終わると返してもらう。その結果、成績が上がった。この調査を行った研究者の試算では、スマホを禁止した結果、9年生[訳註:日本の中学3年生]は1年間で1週間長く学校に通ったのに相当するほどの学習効果があった。特に成績を伸ばしたのは、勉強で苦労していた生徒たちだった。学校でスマホを禁止すれば、お金をかけずに生徒間の成績格差を縮められるというのが結論だ。
一部の生徒、特に成績上位の生徒は、スマホが益になることもあるかもしれない。少なくとも、それほど悪影響は受けないだろう。だがそれ以外の生徒にとってはスマホは害にしかならない。これは、人によって受ける影響には差があるという先ほどの研究結果と一致する。8~11歳の子供約4千人に記憶力や集中力、言語能力を調べるテストを受けてもらった。スクリーンの前にいるのが2時間未満の子供たちは結果がよかった。だが、スマホ以外にも要因があった。毎晩9~11時間眠っている子供の結果がよかったのだ。運動をしている子供も同様だった。
スマホやタブレット端末の利用制限にどれほど効果があるのかは、はっきりとわかっていない。しっかり睡眠を取り、運動することの影響もしかり。間接的には、不眠や運動不足もスマホのせいかもしれない。スマホは眠りを悪くするし、座りっぱなしになるからだ。
研究者たちの結論は簡潔だ。
子供たちが能力を発揮するためには、毎日最低1時間は体を動かし、9~11時間眠り、スマホの使用は1日最長2時間まで。この睡眠や運動、スマホ・タブレットの時間制限はごく現実的なものだ。だが、どのくらいの子供が達成できているかというと──たったの5%だ。
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もちろんどんな時代も新しいテクノロジーに関連したこの種の問題は存在した。しかし、ゲームやテレビと比べてもスマホの負の面は無視できないのかもしれない。
※『スマホ脳』より一部抜粋・再構成。