「全豪オープン」を100倍楽しめる、出色のドキュメンタリー トップ選手の光と影に肉薄したNetflix「ブレイクポイント:ラケットの向こうに」

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 テニスの4大大会のひとつ全豪オープンが17日に開幕し、連日熱戦を展開している。昨年は、前年覇者のノバク・ジョコビッチ(セルビア)を「入国させる、させない」で大騒ぎだった。入国はしたものの結局、ビザが取り消され認められず、大会前に国外退去となった。「ワクチンを接種していない」ことがその理由だった。が、今年は一転、ワクチン接種は問わないどころか、PCR検査を受ける必要もなければ、「陽性でもプレーできる」という大幅な緩和が採用された。その激変ぶりに驚かされる。そのため、ジョコビッチも今年は出場し、原稿執筆時点では順調に勝ち上がっている。但し、大坂なおみ、アンジェリック・ケルバー(ドイツ)は妊娠中のため、錦織圭、マリン・チリッチ(クロアチア)、カルロス・アルカラス(スペイン)はケガのため欠場している。

恋人が寄り添う光景も

 今大会は、男女とも新旧交代の波の中、若い選手の誰が頂点を奪取するか、あるいはジョコビッチ、アンディ・マレー(イギリス)らがやはり次世代を返り討ちにするのか、それが見どころと言えるだろう。

 開幕を前に、私は偶然、Netflixで1月から公開されたスポーツ・ドキュメンタリーの存在を知り、試しに見てみた。題名は「ブレイクポイント:ラケットの向こうに」。昨年のプロテニス・トーナメントの舞台裏にカメラを入れ、優勝を目指して戦う選手たちに密着したドキュメンタリー番組だ。

 エピソード1「型破りなプレーヤー」(53分)の主役はニック・キリオス(豪)。選手たちからもその才能を羨ましがられながら、なかなか大舞台では結果が出せずにいる。悪童と呼ばれ、主審に悪態をつき、激しくラケットを叩きつけるイメージばかりが認識されがちだが、豪快かつトリッキーなプレーでファンを沸かせる人気者でもある。

 そのキリオスは昨年の全豪オープン、男子シングルス2回戦でメドベージェワ(ロシア)と対戦、早々に敗れてしまった。一般には、「また勝てなかった」という認識が残っている気もするが、カメラはその後のダブルスの闘いを丹念に追う。コート外では常に恋人が寄り添う光景も隠すことなく描かれる。のほほんとして可愛らしい彼女の存在が、キリオスに心の安らぎをもたらしている、とラケットを提供するヨネックスの担当者から聞かされていた。その言葉を裏付ける様子が画面からよく伝わってくる。

地元ファンを熱狂させたのは実は…

 ダブルス・パートナーのタナシ・コキナキス(豪)も、ジュニアのころから仲のいい友人。お互いに気心が知れ、ピンチでも支え合う様子をカメラは克明に捉えている。

 1戦1戦、勝ち上がるごとにボルテージを増す地元ファンの熱狂ぶりも、通常のテレビ中継だけでは伝わってこない現場の熱を感じさせてくれる。短いニュース報道だけで全豪オープンを理解しているファンにすれば、「キリオスってダブルスも出ていたんだ」とそんな基本的なところからビックリするかもしれない。

 昨年の全豪オープンは、久々に登場したナダルが、不安視されていた前評判を覆し、不死鳥のように復活。台頭する若手をはね返した。決勝ではメドベージェワ を倒し、前人未到のメジャー大会21勝を果たした。

 しかし、このドキュメンタリーを見ると、地元ファンを熱狂させた陰の主役がキリオスとコキナキスだったこともはっきり伝わってくる。キリオス・ペアはついに決勝まで勝ち上がり、最後は同じオーストラリア選手同士のペアを破って頂点に立った。キリオスにとっては念願のメジャー・タイトルを手中に収めた。その喜びようもまたリアルに描かれ、彼の人間味に魅かれるファンもきっと多いだろう。

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