ロシア軍がウクライナに最新型戦車「T-14」を投入できない“恥ずかし過ぎる理由”

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高性能のT-14

 T-90は「びっくり箱」という不名誉なあだ名がつけられている。回転式砲塔の内部に多数の弾薬を搭載しているため、攻撃を受けると誘爆しやすく、大爆発が起きると砲塔部分が「びっくり箱」の中身のように飛び出してしまう。

「T-14は、この『びっくり箱』を防止する設計になっています。砲塔部分は無人で、3人の戦車兵が入るスペースはカプセルで守られています。最大出力も最高速度もT-90を上回り、125mm戦車砲からは長射程のミサイルを発射することも可能です。同時期に発表された自走砲や兵員輸送車と車体プラットフォームを共用しており、いわゆる戦闘車体のファミリー化も実現しました。まさにロシア軍が心血を注いだ最新鋭の戦車なのです」(同・軍事ジャーナリスト)

 T-14は2015年の「モスクワ戦勝記念日パレード」で初めて公開されたのだが、西側諸国には当初、発表された高性能を疑う声すらあったという。

「国威発揚のためのニセ兵器で、パレードに登場した戦車もハリボテではないのかという推測もあったほどです。しばらくすると実在する戦車だと分かりましたが、ロシア軍はずっとT-14を“ベール”で隠してきました。機密保持という目的もありますが、『かなり高性能の戦車らしい』という一種の神格化も狙っていたと考えられます」(同・軍事ジャーナリスト)

“プレゼント”の危険性

 T-14の投入をロシア軍が躊躇するのは、「無能な戦車兵」の存在も大きいという。Oryxの調査から浮かび上がるのは戦車の損失だけではない。それを動かす戦車兵にも多数の犠牲が出ていることが考えられる。

「ベテランの戦車兵が不足していることは明らかです。いくら最新型の戦車でも、経験の浅い戦車兵が使えば“豚に真珠”でしょう。おまけにロシア軍は、400両を超える戦車をウクライナ軍に鹵獲されるという大失態を犯しています。通常、戦車が敵軍に奪われる可能性が生じたら、なるべく自分たちで破壊するというのが戦場のセオリーです」(同・軍事ジャーナリスト)

 専門家でさえ首を傾げるのは、ロシア軍の兵士は緒戦の時点から戦車を乗り捨てる傾向があったことだ。

 簡単な修理で動くどころか、無傷の戦車さえ少なくなかったという。しかも、戦車を操縦していたのは熟練兵が中心だった。にもかかわらず、破壊を試みることはなく、みすみすウクライナ軍に“プレゼント”してしまった。

「経験不足の戦車兵となれば、鹵獲のリスクはさらに上昇するでしょう。最新のT-14で出撃させ、これまでと同じように無傷でウクライナ軍に鹵獲されてしまえば、最高の軍事機密をみすみす西側諸国に公開することになってしまいます」(同・軍事ジャーナリスト)

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