“廃墟マニア”に大人気の「摩耶観光ホテル」で進んでいた知られざる解体・墓地造成計画、危機を救ったのは…
マヤカン所有者と廃墟マニアが初対面
当初は会社に勤めながらNPO法人としての活動をしていた前畑氏は、2014年に会社を辞め、NPO法人に全てをかけて生きていくことを決めた。三宮氏に初めて会ったのはそんなタイミングだった。
「NHKで番組制作していた旧知のディレクターが“独立したそうだけど、大丈夫か?”と心配して、僕に仕事をくれたんです。取材候補地を上げてくれということだったので、マヤカンを入れました。その案が通り、撮影でマヤカンに行った時、立ち合いで来られていた三宮さんとお会いしたんです」(前畑氏)
実は前畑氏は、これ以前からマヤカンの保存・活用を考え、所有者である三宮氏の会社に何度か接触していた。
「その時は先代社長だったんですが、全然相手にしてもらえませんでした」(前畑氏)
そしてこの時、前畑氏と所有者の三宮氏は、マヤカンで初めて言葉を交わした。
当時の印象を三宮氏はこう語る。
「正直に言いますと、僕は廃墟の魅力なんて全然分かりませんし、廃墟マニアは迷惑な存在としか思ってなかったんです。不法侵入されてしんどい思いをして来ましたから。しかし前畑さんは、目をキラキラさせながら“廃墟マニアって世界中にいるんですよ”と説明してくれたり、奥さんの温子さんが撮った廃墟の写真を見せてくれて、へー、こういう見方もあるんか、と初めて知りました」(三宮氏)
「得体の知れなかった廃墟マニアが、そんなに悪い奴らじゃないと思ってくれたんじゃないですかね」(前畑氏)
「三宮さんはそういう優しい人なんです」
初対面ならではの微妙な距離感での会話で、前畑氏のある言葉が三宮氏の心に引っかかった。
「前畑さんはその時、勤めていた会社を辞めて、産業遺産の廃墟などを活用するNPO法人一本で行く、と言ったんです。しかも奥さんの温子さんも、勤めていた保育園を辞めて写真家としてやっていくと。ちょっと待って!そんなん商売になるわけないやん! それに生活と命をかけてやっていくって、こりゃマズイことになるんじゃないかと、もの凄く心配になったんです」
三宮氏にとって前畑氏は、さっき会ったばかりの赤の他人だ。しかも三宮氏が理解できない廃墟好き側の人物だ。なぜそれほどまでに気にしたのか?
「僕は何かのご縁で知り合った人には、変な方向に行って欲しくないんです」(三宮氏)
「三宮さんは、そういう優しい人なんです。あの時、めっちゃ心配してくれました。結婚したばかりなのに大丈夫なのか、やっていけるのかって、すごく言ってくれました」(前畑氏)
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