友達が多いのは「よく誘う人」? 行きたくない飲み会も自分のホームに変えてしまうテクニックとは(古市憲寿)

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 よく食事に誘ってくれる友人がいる。だが予定が合わずに断ってしまうことも多い。その人が面白いことを言っていた。

「気にしないで。俺からの誘いはメルマガだと思ってくれればいいから」

 定期的に届く企業のメールマガジンだと考えてほしい、本当に気が向いた時だけ返事をくれればいいと言うのだ。そこに人付き合いの極意を見た気がした。

 他者と仲良くなるコツは、究極的には回数に集約される。年に1度しか会わない人よりも、毎日会う人に情が湧くのは自然なことだ。だが家族や同僚でもない限り、誰かと繰り返し会うのは思いの外難しい。そこで大人たちは食事やゴルフといった用事を設定し、他者と会う機会を作るわけだ。

 友達が多い人というのは、よく誘う人である。

「集まりに誘われなかった」「仲間外れにされた」と文句を言う人がいる。そんな愚痴を聞く度に思うのは、「だったら自分から誘えばいい」ということだ。

 もしも自分を魅力的な人物だと信じるなら待ちの姿勢でも構わない。とんでもないスーパースターであれば、自分から声など掛けなくても、誘いが絶えないだろう。だが僕の知る限り、世間からは「スーパースター」にしか見えない著名人も、友達が多い人は、きちんと社交的だし、自ら他人を誘っている。

 もちろん自分から声を掛けるのをちゅうちょする気持ちもわかる。「断られたらどうしよう」とか、「相手も忙しいだろうな」とか考えてしまい、なかなか連絡ができない。そして勇気を出して誘ってみても、予定が合わないと断られ、心が折れてしまう。

 そこで冒頭のメルマガの話に戻る。自分の連絡を「メルマガ」くらいに思っておけば、断られるのはもちろん、返信さえなくても気にならない。誘いを「メルマガ」と割り切れる人の方が、結果的に友達は多くなる。

 ある大きな企業で講演をした時に、参加者からこんな質問を受けたことがある。上司や取引先など、あまり好きではないがむげにはできない人から、飲み会に誘われた時の対処法を教えてほしい、というのだ。

 僕の答えは「その会に友人を誘ってもいいか聞いてみるのがいい」。苦手な上司との1対1の会は苦痛かもしれないが、こちらが友人を2人誘えば、上司1対仲間3の会になる。場の空気も、会話の主導権も、こちらが握れる。

 関係作りはチーム戦だと思った方がいい。一人でアウェイな敵地に乗り込むのは、コミュニケーション能力に自信がある人以外はやめるべきだ。そもそも、よほど親密にならない限りは、1対1の会などすべきではない。

 この観点からも「メルマガ」戦略は優れている。自分から誘う限り、いつも会はホームで開かれる。誰を呼んで、どんな雰囲気にするかを、自分で差配することができる。招かれる会よりも、ずっと気楽で居心地がいいはずだ。というわけでセキさん、あまりメルマガに返事できていませんが、また近々会いましょう。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2023年1月19日号掲載

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