「中井貴一」特別インタビュー 素晴らしい後輩たちとのセッション
吉田羊から学んだこと
で、たまたま他の知り合いのプロデューサーさんや、三谷幸喜さんにも「吉田羊さんって女優さんがいるんですけど、とっても自然な演技をする方ですよ」という話になって……。そこからは、元々実力があるから、とんとん拍子に進むのは当たり前。
たまたま僕が最初に縁があったというだけで、僕が導いたわけでも何でもないんですよ、本当に。彼女を売り出したい、といった気持ちはなくて、良いものは良いというだけ。彼女の実力が花開いたというだけなんだと思います。
結局、彼女に限らず、実力のある人は、出てくるんです。時には道筋は誰かがつけることもあるけれど、自分自身の力で出てくることが大事なんだと思います。自分の力で出てきた人は長く持つんですよね。
僕は俳優人生には「高さと長さがある」と思っていて。「高さ」というのはワーッと人気が出ることを言うんですが、役者にとって大事で難しいのは「長さ」だと思うんです。長く仕事をし続けることの難しさ。それは努力や根気がなければできません。これからの後輩たちも「高さ」ではなく、「長さ」で生きていく俳優さんになってくれたらうれしいなぁ、と思っています。
吉田さんの人気が出ていく姿を見ていて、本当にたくさんのことを学ばせてもらいました。あの「瞳」の中の小さな役を、彼女が手を抜かずにやっていたからこそ、パッと引きつけられたんです。このくらいの小さな役ならいるだけでいいという気持ちでやるのか、小さい役なら小さい役なりに自分を表現する、という気持ちでやるのか、その差は大きいと思うんです。その役を与えられてベストを尽くす。「人の振り見て我が振り直せ」「初心忘るべからず」、とはまさにこのことです。
「お客さんの意識を変えるためには…」
〈最近、女優としての仕事ぶりを高く評価されている小池栄子。彼女は先輩の中井からアドバイスされたことへの感謝の念をテレビ番組などで明かしているが、中井自身は「全ては本人の実力」と淡々と語る。〉
小池さんとは、弁護士事務所の僕の秘書の役(「スマイル」09年・TBS系)で初めてご一緒したんですけど。まだバラエティーへの出演が8割でお芝居のほうが2割くらいだった頃で、彼女は「私はお芝居がすごく好きで、今後もお芝居をやっていきたいし、女優という仕事を生業にしたいと思っている」とおっしゃっていたので、僕は「すごく向いていると思うよ、女優さんに」と答えました。ただ、お客さんのイメージというものがあって、「あの人はバラエティー番組に出る人でしょ」と見られる。要するに、役者が歌を歌って、どんなにうまくても「役者さんが歌ってる」とレッテルを貼られるのと同じです。
人間というのは、何かを失わないと何かを得られないと僕は思うんです。人生訓みたいなものですかね。うまく両立して両方とも100点満点を得ようとするのは、難しい。小池さんで例えるならば「いい女優さんだね」と言われるようになるには、今やっていることの全てを断ち切るぐらいの気持ちで女優業に向かえば、お客さんの意識がすごく変わるのではないかと思ったのです。
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