地方移住する仕組みを社会インフラにする――高橋 公(ふるさと回帰支援センター理事長)【佐藤優の頂上対決】

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移住成功の条件

佐藤 先程もコロナ禍のお話が出ましたが、全体としてどんな影響を及ぼしましたか。

高橋 2020年の春以降、東京から周辺県への移住相談が1.5~2倍に増えました。そしてそれが2021年には全国化した。

佐藤 まずは近県で考え、リモートワーク志向の高まりで地方が視野に入っていったのですね。東京のオフィスに週1回とか月2回なら、かなり離れた場所でも仕事ができます。

高橋 また移住までの期間が短くなりました。以前は相談から移住まで2~3年かかるのが普通でしたが、それが半年程度という人も増えた。真剣さの度合いが増した感じです。

佐藤 企業がリモートワークの拡大にともなってオフィスを縮小するなどしたことも、移住増加に拍車をかけたでしょう。

高橋 2022年7月にNTTグループがリモートスタンダード制度を導入しましたね。リモートワークが基本となり、全国どこでも働けることになった。それでグループ内のSNSで私どもの移住セミナーの予定が定期的に紹介されています。他にも過疎でなり手のない特定郵便局の人材確保で、日本郵政からも連携する話が持ち込まれています。

佐藤 確かに企業とコラボレーションすることも一つの手ですね。

高橋 こうなってくると、最大の課題は、参加する自治体を増やすことです。現在、全国に市町村は1718ありますが、いま私どもの会員になっているのは509自治体です。これを倍増していきたい。

佐藤 会員になると、自治体はいくらかかるのですか。

高橋 年会費は5万円です。

佐藤 それは安いですね。月5万円でもおかしくない。

高橋 年5万円でセンターに蓄積された情報やノウハウを共有できますし、東京・有楽町の一等地で、無料で年1回移住セミナーも開催できます。

佐藤 東京のど真ん中でセミナーをやろうと思ったら、会場費だけで数十万円かかりますよ。

高橋 立地が良いので、この8階のフロア全体の賃料もかなり高額です。それを政府の補助金ゼロでやってきた。なかなかのものでしょう(笑)。

佐藤 すごいです。相談に来るのはどんな人たちなのですか。

高橋 それはさまざまで、一口には言えないですね。ただ2008年には50代以上が7割を占めていたのが、いまは20~30代で5割を占めています。

佐藤 現役世代の移住がメインになっている。相談に来たうち、実際にどのくらいの人が移住していくのでしょうか。

高橋 その数字は出していませんが、6割くらいは移住してもらいたいと考えて運営しています。

佐藤 移住しても、うまくいく人といかない人が出てくるでしょう。

高橋 「オレが、オレが」の人はダメですね。地方には、それぞれ何百年と積み重ねてきた歴史がある。そこにいきなり自分の価値観や東京の価値観を持ち込んでも、うまくいくはずがない。その地域を変えていくにしても、2~3年しっかりその地域で信頼を得てからじゃないと、受け入れられません。

佐藤 自分中心ではダメだということですね。それは転職も同じで、いまいるところは私が本来いる場所じゃないとか、まだ私は実力を出していないだけとか、こういうタイプの人は、だいたいうまくいかない。

高橋 移住に向かない人には、さりげなく東京の方がいいんじゃないの、と伝えています。だから20年間やってきて、ここを通じた移住に大きなトラブルはないんですよ。

佐藤 逆に受け入れる側には、どんなことが求められますか。

高橋 地方の自治体の方々には、三つ、お願いしています。一つは移住には住む場所がいる。だから空き家バンクを作ってほしいんです。次に、40代までの働き盛りの世代が移住希望者全体の7割以上になっていますから、仕事を用意して移住者に提供してほしい。

佐藤 各県のブースの最後に、ハローワークがありましたね。

高橋 ハローワーク飯田橋の分室です。2022年で6年になりますが、非営利のNPOだからできた。こうした分室はほとんど例がないはずです。ここで全国の求人情報を提供しています。

佐藤 三つ目は何でしょう。

高橋 その地域で移住者を支援する応援団を作ってほしいのです。やはりよそ者を拒む地域もあります。そういう場所ではなじめなくて断念して帰る人もいます。何かで困った時に、相談に乗ってくれるところが必要です。つまり、現地の「ふるさと回帰支援センター」があるといい。

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