一夜のあやまちの後、突然会社に現れた浮気相手… 年下女性に“略奪”され「新生活がつらい」と嘆く50歳男性の苦悩

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今も晴れないミドリさんへの疑い

 なんのために妻子をあんな形で失ったのか。仕事まで失って。それ以降、彼は生きる気力さえなくしかけた。

「子どもはまた産めばいい。若いんだからと継父は励ますつもりなのか軽く言いましたが、彼女の母親は『あんたのせいで娘が不幸になった』とつぶやきました。ミドリは『私はあなたと一緒にいられればいい』とかばってくれましたが、僕自身がどうしようもない空虚感にとらわれてしまって。近くに精神科や神経内科もないんですよ。しかたがないので隣の大きな町へ行ってカウンセリングを受けたら、『あの家の婿は精神的な病らしい』と噂が広まった」

 職場でも嫌な思いをすることが多くなり、行くことができなくなった。ひとりになりたいと思いながらも、ミドリさんの家を出る勇気も気力もない。そんな生活がすでに2年ほど続いている。

「元の家は妻と子どもたちが住んでいます。ローンの残りは僕が払うことになっていましたが、払えなくなった。退職金や預貯金もほとんど妻に渡しましたから、僕が持ってでたのは虎の子の社内預金200万だけ。それもミドリと暮らすようになってほとんど取り崩しました。今はミドリの両親に食べさせてもらっている状態です。僕以外は働いているので、家事をしていますが、心身ともにしんどくて完璧にはできない。両親の目が怖くて、食事は夕方、ひとりでさっさとすませています。ミドリからはたびたび、両親の前で『体調がよくなったら働くもんね』と言われて……。それもプレッシャーでしたね。近所の目があって、外に出るのが怖いから」

 そんな彼を支えたのは、ときどき連絡をくれる息子の存在だった。息子は彼が精神的につらくなっているのを把握している。

「こっちに戻って病院に行けばいいと言ってくれています。そうしたいのは山々だけど、ミドリの手前、それもしづらい。ただ、やはりミドリは僕を騙して関係をもったのではないか、あのとき睡眠薬を入れられたのではないか。その疑問が払拭できないんですよ。今になって、どうしてこんな目にあっているのか、どう考えてもわからないという気持ちが強くて」

 どこかへ行ってしまいたい、消えてしまいたいと彼はつぶやいた。息子さんに連絡したほうがいい。早く病院とつながってほしい。そう言うと「やっぱりそうですよね」と彼は消えそうな声で言った。その場で息子さんに連絡をしているのを見届けて別れた。

 その後、彼は首都圏に戻ってきた。息子が段取りをして、今は入院していると連絡があった。ミドリさんも追いかけてきたようだが、コロナ禍で見舞いにも行けないので実家に戻ったそうだ。

 彼が本当に「わけがわからない状態になって浮気した」のかどうか、睡眠薬を入れられたのかどうか、今となっては真実はわからない。妻が見捨てなければ、今も結婚生活が続いていたかどうかもわからない。なんともすっきりしない展開からのスピード離婚なのだが、「こういうこともある」と思いつつ、彼の回復を祈るしかなかった。

 ***

「五十にして天命を知る」どころか、50歳にして一気に人生が暗転してしまった亮輔さん。具体的な病状は明らかにされていないが、入院を経て、ふたたび活気を取り戻すことはできるのだろうか。

 今回のレポートで目立つのは亮輔さんの主体性のなさである。ほとんど強引に彼との結婚を迫るミドリさんに対しては、その胸のうちを聞いて「片思いのつらさは、僕自身も妻に対して経験がある」と妙に同情的になっているし、妻の路子さんに問い詰められたときも自身の清廉潔白を強く主張しようとはしない。もしクスリを入れられた疑いがあり、家庭を失うことを本当に恐れているのならば、積極的に被害者であることをアピールすることもできたのではないか。

 路子さんとの馴れ初めからして、亮輔さんはほとんど受け身だった。〈いつでも自分のほうが少しだけ妻をより愛していると亮輔さんは感じていた〉とあるから、自分を選んでくれた妻に対する負い目のような感情があったのかもしれない。

 結局のところ、二人の女性に流されるままに行き着いた先が、現在の苦境なのだろう。このままミドリさんと添い遂げるのか、別の道を進むのか。いずれにせよ、そろそろ自分の意志で動くことが必要である。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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