治安の悪いアフリカで日本人の老僧侶がみせた信じがたい強盗撃退術【元公安警察官の証言】

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被害を受けなかった聖職者

 そこで勝丸氏は、3人の日本人に下着を買うお金を貸したり、自分の古着を与えたという。

「日本大使館には、こういう場合に備えて、日本に帰るための航空チケットの代金を貸し出すお金を用意しています。パスポートの再発行には時間がかかるので、帰国のための渡航書(臨時のパスポート)を作りました」

 帰国した日本人は後日、外務省の指定口座に借りたお金を振り込んだという。

もっとも、危険な公共交通機関を使っても、まったく被害を受けなかった日本人が2人いたという。

「1人は、50代のクリスチャンの女性です。彼女は、ある式典に参加するためにアフリカを訪れたのですが、大使館に挨拶に来たいというので、電車は使わずレンタカーかタクシーで来てくださいとアドバイスしました。ところが彼女はお金がないからと言って電車に乗ったのです。私はこれはマズイと思いましたが、まったく被害に遭わなかったそうです。彼女は、黒い修道服を着ていたので、襲われなかったようです。この国の85%はキリスト教徒なので難を逃れたようです」

 もう1人は、80歳近い日蓮宗系の日本山妙法寺(本拠地・東京)の僧侶だった。

「日本山妙法寺の僧侶といえば、よく国会の前や広島、長崎などで核の廃絶を訴える平和行進をしています。黄色い袈裟を着て、太鼓をドーンドーンと叩くのです。昨年は、ロシアのウクライナ侵攻について『ウクライナに、広島、長崎を繰り返してはいけない』と訴えていました。この国に来たのは、日蓮宗の教えを広めるためでした」

 この僧侶はお金がないので、ホテルにはほとんど泊らず、駅などで寝ることが多かったという。

「駅でウトウトしていると、ストリートチルドレンが近づいてきて、首に下げた財布などを入れる僧侶鞄を取ろうとしたのですが、気配を感じた僧侶は起き上がって大声でお経を唱え、太鼓をドーンと叩くので、子どもはびっくりして逃げたといいます」

 街中を太鼓を叩きながら説伏し、お布施ももらっていたという。

「中国人や韓国人が経営するレストランのそばを通ると、僧侶は店主から『旅の道中で食べて』と言われて肉まんなどをもらったそうです」

 僧侶は、現地の寺院の場所を教えてもらうために日本大使館にもやってきた。

「電車は危険ですと注意しましたが、聞く耳持たずでした。電車に乗ると、怪しい数人の男が近づいて来たので、僧侶は『お前たちのためにお経を読んでやる』と言って大声で読経しだしたので、男たちはびっくりして逃げたそうです」

勝丸円覚
1990年代半ばに警視庁に入庁。2000年代初めに公安に配属されてから公安・外事畑を歩む。数年間外国の日本大使館にも勤務した経験を持ち数年前に退職。現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活躍中。「元公安警察 勝丸事務所のHP」https://katsumaru-office.tokyo/

デイリー新潮編集部

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