王将戦で藤井聡太が先勝 敗れた羽生善治が「どこが悪かったのか分からない」と語った意味

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「まだ修行が足りないです」

 対局の前日の7日には、検分(対局者が対局室を見たり駒を選んだりすること)などが行われた。

 小中学生らが参加する「第10回掛川こども王将戦」の見学も同じ日に行われ、藤井は緊張している感じだったが、羽生はよく足を止めて盤面をしばし眺め、子どもたちにアドバイスしたそうな表情も見せた。

 日本将棋連盟の中山雅夫・掛川支部長は「14年続けて王将戦が掛川で開けました。羽生さんには4回目、藤井さんには2回目。もうこれ以上ない夢の大局。『こども王将戦』も去年までコロナでリモートでしたが、今年は集まれた上、羽生さんや藤井さんを間近に見て感激していますよ」と喜んだ。

 記者会見は掛川城近くの二宮尊徳ゆかりの「大日本報徳社」で行われた。筆者にとって記念すべき羽生へのインタビューである。居合わせた著名な将棋ライターの松本博文さんが「私も聞きたかった質問です」と言ってくれたので、気を良くして再現する。

粟野:2年ほど前、谷川(浩司)九段(十七世名人=60)に「大山(康晴)名人(1923~1992)は、なんで50代、60代であんなに強かったのですか?」と尋ねたら、少し間をおいて「対局中に相手が何を考えているかを見抜く人間観察力がすごかったのでは」と話された。羽生さんも50歳を越えられましたが、若い頃よりそういう能力が出てきたなとか、相手の表情から読めるとか思われることはないですか?

羽生:なるほど。もちろんたくさん対局した経験値から、こういう手が来るのではと予測するのですが、なかなか実戦で相手の手を予測するのは難しい作業なので、いろいろな可能性に対応できるようにしておくことが、私がやっていることです。大山先生も最晩年に10局ほど指しましたが、なんて言うか、相手の手を予測するのが巧いというか、そういう力が長けていた。ぱっと見て局面の急所、ツボを押さえるのがすごいと感じました。

粟野:ご自身にそうした力は?

羽生:あまり感じたことはなくて、できるようになればいいけど(笑)。まだ修行が足りないです。

粟野:藤井さんとの対局では、そういうことが読みにくい相手だとか感じたことは?

羽生:藤井さんに限らずトッププロの手を毎回正確に当てるのは不可能なので、いろいろな可能性に対して対応することですね。将棋は常に何十も手があり、ぴったり当てることは困難ですね。

粟野:ぴったりでなくても、相手の性格などから、こういう時は攻めて来るなとか、そういうことは?

羽生:ああ、なるほど、そういう棋風とかスタイルかですか。それはかなりの局数をやってこないと、なかなかそういう傾向は見えてこないし、藤井さんとは公式戦も10局に満たないので、なかなかわからないのが実情ですね。

粟野:ありがとうございました。

 最後に、最近、将棋といえば、話題になるのが対局中の食事とおやつである。年末には掛川グランドホテルで久保田崇・掛川市長の立ち合いのもと試食会まで行われ、盛り上がっていた。

 今回の2人の注文を列挙しよう。

▼1日目
▽午前のおやつ
藤井:火の羊羹3種(ゆず蜂蜜・掛川茶・本練)、抹茶、アイスコーヒー
羽生:掛川桜のプリン、ホットコーヒー
▽昼食
藤井:掛川牛の麻婆豆腐(サラダ・ごはん・スープ付)
羽生:遠州黒豚と掛川野菜のトマト煮込み(サラダ・スープ・パン付)
▽午後のおやつ
藤井:CHABATAKE、フレッシュジュース(いちご)
羽生:火の羊羹3種、抹茶

▼2日目
▽午前のおやつ
藤井:掛川桜のプリン、アイスコーヒー
羽生:クッキーアソート、紅茶(ホット)
▽昼食
藤井:しあわせの青い玉子のオムライス掛川牛シチューソース(サラダ・スープ付)
羽生:うな重(浜名湖産うなぎ)
▽午後のおやつ
藤井:フレッシュジュース(パイナップル)、アイスティー
羽生:CHABATAKEフィナンシェ、コーヒー(ホット)

 昨年の王将戦で藤井が食べて以来、爆発的に売れるお茶を使用したケーキ「CHABATAKE」(2100円)を手土産にした。ずっしりとしたケーキは素晴らしい味と食感だった。

 第2局は大阪府高槻市で1月21、22日の両日に行われる。
(一部、敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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