【舞いあがれ!】浩太の急死、IWAKURAの窮地で…脚本家の訴えたいメッセージが見えてきた
ヒロイン・岩倉舞(福原遥[24])の父親でネジメーカー「IWAKURA」社長の岩倉浩太(高橋克典[58])が、心疾患で急死した。6日に放送されたNHK連続レビ小説「舞いあがれ!」の第66話だった。舞は進路をパイロットから同社の跡継ぎに切り替えるに違いない。メインで脚本を書いている桑原亮子氏(42)の訴えたいメッセージの一片が見えてきた。
パイロットにならない…舞に響く大河内の言葉
心優しき舞が、浩太が苦労を重ねて大きくしたIWAKURAを潰せるはずがない。いつも自分を見守ってくれた母親・岩倉めぐみ(永作博美[52])も放っておけないはずだ。
舞はIWAKURAにとどまるだろう。それは親の死によって夢破れるわけではない。自ら選ぶ進路変更である。
ここで意味を持ってくるのは航空学校編の第55話で教官大河内守(吉川晃司[57])が口にした言葉だ。舞が退学になった同期の水島祐樹(佐野弘樹[29])に対し、同情心を抱くと、大河内はこう戒めた。
「岩倉、水島学生は確かにこの学校を去ることになった。だが、それで人生が終わったわけではない」(大河内)
もっと重かったのは次の言葉である。
「水島はこの学校で多くのことを学んだ。やるべきことに本気になって、夢中でぶつかり続けることと、本音で話せる仲間を見つけ、励まし合い、高め合うことだ」(大河内)
パイロットにならなくても航空学校での日々は無駄にならない。なにわバードマンの仲間たちと奮闘した時間もそうである。
今後も航空学校、なにわバードマンの面々は事あるたびに登場するだろう。舞と本音で話し、励まし合い、高め合うに違いない。さらに舞は新たな仲間も見つけられるはずだ。
物語が折り返し地点に到達した現在、思っていた以上に新しい朝ドラであることに気づかされた。まず、これまでの朝ドラのヒロインたちの多くは努力の末に当初の目標を達成し、それが1つのゴールとなった。
「ちむどんどん」(2022年度前期)の暢子(黒島結菜[25])は料理人になり、「おかえりモネ」(2021年度前期)の百音(清原果耶[20])は気象予報士になった。
舞はどうやら違う。しかし、実社会に目を移すと、幼いころや学生時代に抱いた目標の達成ばかりがゴールではない。当初の目標達成が正しいとも限らない。過去106作の朝ドラのヒロインたちは枠にはまり過ぎていたのかも知れない。
物語と重なる作者・桑原亮子氏の半生
物語から透けて見えるのは桑原亮子氏の半生である。本人が明かしたところによると、中学生の時、原因不明の感音性難聴と診断された。そのハンディを補おうと、早稲田大時代には弁護士の資格取得を目指した。それがゴールだと考えたわけである。
しかし、難聴が悪化。ほとんど聴こえなくなる。進路変更を考え始めたころ、市井の人が書いた詩や童話が掲載された文芸雑誌と出会い、心惹かれる。身近な幸せや、喜びがつづられていた。自分も書きたいと思い始める。
「何か、もしかしたら、書けるのではないかなと思って」(桑原氏、NHK福祉情報サイト「ハートネット」)
違うゴールが見えた。そこから桑原氏はシナリオ学校に進んで勉強し、脚本を書き始める。結果、ラジオドラマ「冬の曳航」(NHK FM)で2019年度の文化庁芸術祭優秀賞を受賞した。
2020年には求められて連続ドラマにも進出する。NHK「心の傷を癒すということ」(2020年)である。ゴールは1つではない。壁にぶつかっても心折れる必要はない。これも桑原氏のメッセージの1つだろう。
浩太も父親の死によって重工メーカーを辞め、IWAKURAの前身である「岩倉螺子製作所」を受け継いだ。それによって辛酸を舐めることになったが、身近な幸せや、喜びは得た。特に、めぐみを妻に持ったことは浩太にとってかけがえのないことだった。
舞が8歳だった1994年に会社の経営が行き詰まった時、浩太はお好み焼き屋「うめづ」を営む幼なじみの梅津勝(山口智充[53])に対し、重工メーカーを辞めたことへの後悔を口にした。第13話だった。しかし、めぐみに愚痴をこぼしたり、当たったりはしなかった。大切にしていた。
それから15年後の2009年。浩太は急逝前に、めぐみに向かって「いつまでたっても、楽にしたられへんな」と詫びた。すると、めぐみから「楽やないけど……楽しいで」と明るい返事が返ってきた。浩太は会心の笑みを浮かべた。幸せそうだった。
めぐみを残して逝くのは心残りだったに違いないが、浩太の生涯は不幸ではなかった。めぐみの愛とやすらぎを得られたのだから。桑原氏は暗に「幸福とは何か」とも問い掛けている。
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