再燃する「地下鉄は核シェルター」説… 3つの「鉄道都市伝説」の真相は

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(3)ウクライナ侵攻で再燃した都市伝説

 鉄道忌避伝説と大隈狭軌採用主導説の2つは、鉄道黎明期のエピソードが広まり、現在まで語り継がれる鉄道都市伝説といえるだろう。そのほかにも鉄道都市伝説は多くあり、珍しいものでは、過去に否定されながらも歳月を経て復活した地下鉄核シェルター説というものもある。

 地下鉄核シェルター説は、すでに否定された都市伝説だったが、2022年2月にロシアがウクライナへ侵攻したことで再燃した。

 ロシア軍はウクライナの首都・キーウ(キエフ)を猛攻撃したが、ロシア軍からの攻撃から逃れるために、多くのキーウ市民が地下鉄構内へと避難した。

 地下鉄で避難生活を送るキーウ市民のニュース映像は、日本でも頻繁に流されている。ロシア軍は核兵器を保有する軍事大国。それだけに地下鉄に逃げ込む避難民の映像を見て、「地下鉄構内が核シェルターの役割を果たしている」と想像した日本国民もいるだろう。

 過去に、東京の地下鉄にも核シェルター説が根強くあった。地下鉄核シェルター説が真実味を帯びて語られるのには、いくつか要因が考えられる。

 例えば、東京交通局が運行する都営地下鉄大江戸線の清澄白河駅と麻布十番駅には、防災倉庫がある。同倉庫内には、災害発生時のために非常食・水・毛布などが備蓄されている。これらは、あくまでも地震や火災などの一時避難用として備蓄されているにすぎない。

 とはいえ、核攻撃も有事であることに変わりない。そうした文脈から、地下鉄核シェルター説が広まる。

 ほかにも、大江戸線の光が丘駅は陸上自衛隊の練馬駐屯地から近く、自衛隊が大江戸線で有事を想定した訓練をしたことがあった。そうしたことも地下鉄核シェルター説に拍車をかけている。

 核シェルター説が語られるのは、都営地下鉄だけではない。東京メトロもその一端を担う。例えば、有楽町線は永田町駅・桜田門駅・市ヶ谷駅を通っている。それぞれ、国会議事堂・警視庁・防衛省の最寄り駅だ。これらの駅を有楽町線という地下鉄が一本で結んでいる。想像をたくましくすれば、有楽町線がなんとなく核シェルターのように思えてくるのかもしれない。

 しかし、キーウ地下鉄と東京の地下鉄とでは大きな違いがある。それが、地下鉄が走っている場所の深さだ。キーウ地下鉄は、最深のアルセナーリナ駅が地下105.5メートルに所在している。

 対して、東京の最深部は都営地下鉄六本木駅の地下約42.5メートルだ。東京の地下鉄は、かなり浅い地下を走っている。とても核攻撃に耐えられる深さではない。

 それでもロシアのウクライナ侵攻をきっかけにして、東京の地下鉄核シェルター説が復活を遂げることになった。どんなに鉄道事業者が否定しても、鉄道都市伝説は消えることはない。都市伝説が内包する魔力のせいなのかもしれない。

 今回は、代表的な鉄道都市伝説を3つ紹介した。150年の歴史を有する鉄道には、ほかにも都市伝説がたくさんある。それらは、真贋不明なものが多いが、面白おかしく語られることで広まっていく話もある。

 いずれにしても、鉄道都市伝説を信じるか信じないかは、あなた次第だ。

小川裕夫/フリーランスライター

デイリー新潮編集部

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