再燃する「地下鉄は核シェルター」説… 3つの「鉄道都市伝説」の真相は
2022年は鉄道開業150年という記念すべき節目の年だった。鉄道業界はコロナ禍という未曾有の危機に直面していたこともあり祝賀ムードは薄かったが、それでも150年という歳月は鉄道が積み重ねてきた歴史の重さを実感させるには十分だろう。
【写真】習近平も乗らなかったインドネシアの“中国製”高速鉄道
150年もの長い歴史の中では、鉄道にまつわる都市伝説も多く生まれている。そのなかでも、もっともメジャーなものが鉄道忌避伝説だろう。
黎明期の鉄道は、現在は主流になっている電車ではなく、汽車だった。それも石炭を燃料とする蒸気機関車(SL)だ。SLは火を焚く ことにより走ることができる。そのため、沿線には火の粉が飛び、火事になるとの噂が絶えなかった。誰しも自分の家を燃やされたくない。だから、人家が密集していた集落では鉄道 建設に反対する人たちが多かった――そんな話が一人歩きしていく。
人口が多いにも関わらず鉄道が走っていない都市、もしくは中心市街地から離れた場所に駅が開設されている街では、「反対運動が影響して、鉄道当局が鉄道をつくることを避けた」という伝説が生まれた。
これが鉄道忌避伝説と呼ばれるもので、自治体が公式に発行する市史や教育委員会が作成している郷土史、はては歴史教科書の副読本などにも記述されていることがある。そのため、小中学校の授業で「うちの町に鉄道がないのは~」と教えられた記憶がある人も少なくないだろう。
また、親から子へといった形で鉄道都市伝説は伝わり、それが人の口を介していくことで尾ヒレがついて話が膨らむことも珍しくない。
鉄道都市伝説は、長らく真実として語られてきた。その定説をひっくり返したのが、地理学者で鉄道にも造詣が深い故・青木栄一だ。青木は鉄道が来なかったとの伝説が根強く残る自治体の公式資料などを精査し、その自治体で流布する鉄道忌避伝説を丹念に検証。そして、2006年に著書『鉄道忌避伝説の謎』(吉川弘文館)にまとめている。
同書は、秀作ながらも一般に広く読まれている書籍とは言い難い。歴史教科書の副読本に及ぶほどの影響力はなく、また鉄道ファンの間でも高い関心を持たれなかった。そのため、いまだ鉄道忌避伝説が完全に払拭されたとは言い難い。
ちなみに、数少ないながらも実際に反対運動が起きて鉄道が来なかった街はある。わずかな例外もあるので、一概に忌避伝説が誤っているとも断言できない。鉄道忌避伝説か否かは 、ひとつひとつ丹念に検証しなければ真実にたどりつかない。その面倒な作業が、鉄道忌避伝説が完全に払拭されない要因のようにも思える。
[1/4ページ]