光る「有田哲平」という個性 真面目な顔でバカバカしい…笑いの原点は“プロレス”にあり

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背景に「プロレス」?

 有田がこの種の笑いを好むようになったのには、彼が大のプロレス好きであるということが関係しているのではないかと思う。プロレスは、独特の様式を持ったエンターテインメントだ。体を鍛えた屈強な男たちが、リングの上で激しくぶつかり合い、華麗な技の応酬を繰り広げる。

 しかし、それはほかの格闘技のような「真剣勝負」とは違う。そこには独特の語られないルールがあり、それを暗黙の前提としてプロレスラーも観客も共有している。

 プロレスファンは、プロレスを見ることと同じくらい、プロレスを語ることを好む傾向がある。プロレスには、はっきりと言語化されていない裏の「物語」があり、それを読み解いたり、分析したり、議論したりすることが楽しみ方の一部になっている。

 有田が好む笑いは、そういう意味で「プロレス的」だ。真面目な顔でやっていることが「どこかおかしい」というのは、受け手が裏の意味を読み取ろうとするからで、それによって面白さの本質がつかめる。明確なツッコミによって裏の意味が明らかになると、物語はそこで終わってしまう。あえて物語を終わらせず、そのふざけた雰囲気そのものを楽しんでもらいたい。有田はそう考えているのだろう。

「くりぃむナンタラ」(テレビ朝日)や「有田ジェネレーション」(Paravi)、でも、有田のとぼけた持ち味が発揮されている。番組によってはお笑いが好きで感性の鋭い若い視聴者にターゲットを絞り、よりディープな笑いを追求しているように見える。

 いつもとぼけていて本性をなかなか見せない有田には、不思議な魅力がある。芸人・有田哲平の生み出す笑いは、裏側に潜む物語を受け手に想像させる「プロレス的」な美意識によって成り立っているのだ。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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