藤井聡太の師匠が語る、羽生善治九段との「王将戦」見どころ 意外な勝敗予想は?
藤井少年“羽生”で泣きやむ
逆に、藤井五冠は羽生をどう見ているのか?
「目指すスタイルは谷川浩司十七世名人なのですが、将棋を覚えた頃に頂点にいた羽生先生が目標だったのは確か。彼が小学2、3年生の頃、研修会で必勝の将棋を終局間際に“四段目角成り”で反則負けしましてね」
子供の頃の藤井が泣き虫だったのは有名だが、このときは輪をかけて号泣し、誰も止められなかったとか。
「そこで、現場にいた大人が『あの羽生さんだって一手頓死で負けたことがあるんだよ』と慰めたんです」
羽生が01年竜王戦挑戦者決定戦で痛恨の失着、一手詰みにされた一件だ。
「すると、藤井少年が『ホントに?』と言って、ピタリと泣きやんだんです」
来る“大一番”に話を戻そう。藤井はタイトル戦11期無敗。羽生は1年前のA級陥落から復調し、勝てば前人未踏、通算獲得タイトルを100期の大台に乗せる。
師匠から弟子に授ける秘策はあるのか?
「藤井五冠は良い意味でも悪い意味でも相手によって作戦を変えることをしないので。こちらがアドバイスする必要はないのではないか、余計な情報を与えない方がいいのではないか、という気がします」
「希望としては3勝3敗で…」
では、どんな戦いになるのか? 見どころは?
「直線的に先を読んで読んで切り込む藤井五冠に対し、曲線的に流れを受け止める羽生九段はどんな戦型も柔軟に指しこなす。それどころか、相手の得意な戦法で戦い、その良さを引き出して、終わってみたら自分のものにしてしまう。逃げずに吸収してしまう。どんな展開でも勝ちパターンにしてしまう。なので羽生九段の戦型選択に注目ですね。番勝負は一局落としても全体で勝ち越せばいいので、いきなりエースを出すのか、それとも2局目以降に温存するのか……」
ずばり予想は何勝何敗?
「羽生九段の復活は、同じ棋士としてうれしく、一局でも多く名勝負を見てみたい。今回、世間が羽生九段を応援しているのもよくわかります。私も弟子が相手でなければ応援します。希望としては、3勝3敗でフルセットにもつれて……」
ちょっと待った。弟子が3敗していいんですか?
「羽生九段との対局は、盤上だけでなく、一局につき2泊3日、前後入れれば4日間一緒に行動する、貴重な機会です。師匠としては弟子に少しでも多くその経験を積ませたいですね。だからフルセット。ただ、そうはいっても弟子ですから、7局目は勝って防衛してほしい。いや、フルセットならどちらが勝ってもいい、という気持ちもあります」
王将戦第1局は1月8日、9日に静岡県の掛川城で行われる。