教育現場の著作物使用が問題視される理由 “著作権後進国”の行く末とは
スマホもスキャナーもない時代にできた法律
著作権法が制定されたのは1970(昭和45)年である。制定当時はスマホもなければスキャナーもない時代だ。
浅田氏が往時を回想する。
「昭和45年は僕が高校を卒業した年です。当時はガリ版で印刷していて、僕もガリを切った記憶があります。その後、湿式の青焼きコピーが普及し、その次が乾式コピーでした。ただ、45年当時は乾式コピーがとても高かった。1枚50円とか100円もして、自分の手書き原稿をコピーするのに大変なお金を払っていました。そのため、昔は簡単に複製などできず、悪用もされなかった。いまは当時と比べものにならぬほど、技術が進歩し、容易に複製ができます。その時代の法律のままでよいのか、疑問を感じています」
その間、著作権法35条は2003年に一度改正されるも、「教育現場では無償で使える」という根本は変わっていない。制定から50年以上もの長き間に制度を変更していないことに驚きを禁じ得ないが、近年、タブレット端末などを教育現場に導入し、ICT教育を推進しようとする政府と文科省の意向で、「無償」という根幹を変えず、お茶を濁すように、一部の法改正が行われた。
それが18年の著作権法改正である。
「補償金制度」のシステム
それまで、メールやリモート授業など、外部サーバーを経由して著作物のスキャンデータを教師から生徒に送信する場合(公衆送信)は、著作権者の許諾が必要だった。それを無許諾で可能とする代わりに、補償金を導入したのだ。それが冒頭に紹介した「授業目的公衆送信補償金制度」である。
この制度を利用する教育機関の設置者は文化庁が指定した管理団体であるサートラス(SARTRAS=一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会)に申請し、一定の補償金を払う。その金額は大学の場合、年額で学生1人あたり720円。高校は420円、中学校は180円、小学校は120円といった具合だ。払ってしまえば、いくらでも公衆送信は可能となる。
文化庁著作権課の担当者によれば、
「この制度に関しては、施行がもう少し後になる予定だったのが、新型コロナウイルスの流行により、オンライン教育の需要が高まったことで、緊急的に施行を前倒ししました。20年度は無償で、21年度から有償で開始しています」
いかほどの補償金が入ってきたかというと、
「21年度は約48億7千万円がのべ4万755団体から補償金として集まりました。これをサートラスの方で分配するという形になります」
サートラスはこの分配補償金に関係するさまざまな業務を担う団体で、音楽、映像、出版、新聞など業態ごとの協議会がぶら下がっている。さらにその協議会に各業界団体が加盟しており、著作権者に補償金を払うことになる。
例えば、書籍の著者であれば、サートラスに属する出版教育著作権協議会から各出版社を通じて、補償金を受け取る。
ただし、問題はここからである。
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