浮気を正当化しようとした40歳夫の困惑…妻がついにブチ切れた彼の“特異気質”はモラハラなのか
誘われるから、傷つけるから…雄介さんの言い訳
その後、コロナ禍になり、雄介さんもキャバクラ通いは控えるようになった。だが、稼げなくなった澄子さんは風俗の道へと転換を図った。あの時期、意外と風俗は生き残りをかけて大サービスを展開しているところが多かった。
「一時期、澄子ちゃんも風俗でがんばってると連絡をくれました。僕は彼女が休みの日にアパートに行って関係をもち、チップ代わりにお金を渡したこともあります。なんだか放っておけなかったんです」
毎回、関係をもったのは澄子さんから誘われるから。何もしないでお金を渡したら、かえって澄子さんのプライドを傷つけるから。雄介さんはそんな言い訳をした。もちろん、恋愛感情がないまま関係を持ち続けることも、男女の間にはあり得る話だ。
「乗りかかった船だから見捨てられないというのが正直なところかもしれない。確かに澄子ちゃんには独特な色気がありましたが、家族と引き換えになるものではないんです」
その話が澄子さんから故郷の妹に伝わり、妹から夏音さんにバレた。雄介さんの妹は、夏音さんのことが大好きだったから「お義姉さんが裏切られているのを看過できない」と思ったらしい。
「人の家庭を勝手に壊すような告げ口をするなよと妹に言いかけて気づきました。あいつは小さいころから妙な正義感だけはもっていたな、と。僕が悪いのはわかっているけど、恋愛したわけじゃないし、すべてお小遣いの範囲内でのこと。夏音だって笑って水に流してくれると思ったんです」
話を聞いた妻の怒り
妹から話を聞いた妻に「どういうことなの?」と聞かれたとき、雄介さんはかなり正直に話してしまった。知り合いだっただけに見捨てられなかった、何もしないでお金を渡すのは失礼だと思った、と。かなり微に入り細を穿って話したし、そこはきちんと論理的に説明もしたと彼は言う。
「いっつもそう、と妻が急に怒りだしたんですよ。『あなたはそうやって私を論破したつもりで、自分を正当化するのよ』『単純に“浮気”でしょ、何をいいことしたみたいに言ってるの』って。僕としては、妻の言いがかりみたいに聞こえたんだけど……。そしてそれからほとんど口をきかなくなったと思ったら、急に家を出て行ったわけです」
あれ、と思った。雄介さんは私に「夫婦間の話し合いが重要」と何度か言ったが、もしかしたら話し合いだと思っていたのは彼だけで、妻は「夫の論理を押しつけられているだけ。これはパワハラ、モラハラだ」と思っていた可能性もあるのではないだろうか。妻が急に怒り出したのは、我慢が上限に達したからではないのだろうか。
「それはないと思う……」
雄介さんは急に言葉数が少なくなった。思い当たるところもあるのかもしれない。よかれと思って言ったことも、相手の受け取り方によっては単なる迷惑、押しつけになることは多々ある。ましてそれが夫という立場からなら、妻がモラハラだと思っても不思議はない。
「参ったな」
そう言ったまま雄介さんは天を仰いだ。穏やかそうだし、話すと楽しい人ではあるが、こういう人が自分の正義を理屈で語り出したら、確かに少しうっとうしいかもしれない。娘の小学校受験のときに妻があまり「話し合い」をしてくれなかったのは、そういう側面もあったからではないのだろうか。
これをモラハラだと客観的に断じることはできない。ただ、「妻が」そう感じていた可能性があるという話だ。うーん、うーんとずっと唸っていた雄介さんだが、「僕の結婚生活は、僕が間違っていたということですかね」とつぶやいた。誰が悪いとか間違っていたとかいう話でもないだろう。妻は何でも許してくれると思っていたのは、完全な「間違い」かもしれないが。この先、彼がどうしたいのか、妻がどうしたいのかが問題だ。「話し合うのが怖くなってきた」と彼はいきなり言った。それでもこのまま放置するわけにはいかない。彼と妻が作った家庭なのだから。
***
雄介さんの振る舞いは果たしてモラハラか否か。亀山氏は断言することを避けているし、究極のところは受け手である妻の夏音さん次第である。ただ亀山氏の指摘に言葉を失うあたり、雄介さんにもその自覚はあるのだろう。
モラハラ気質の人物は、しばしば自覚がないことが指摘されている。「夫婦間の話し合い」だと思っていた場が妻にとっては「論理の押しつけ」だったかもしれない雄介さんは、その例に当てはまりそうだ(参考:「自覚なきモラハラ気質な人の特徴と、正しい付き合い方&縁の切り方」藤本シゲユキの一発逆転恋愛学/with class)。
「話し合うのが怖くなってきた」と雄介さんがこぼすのも、今後は倫理の押しつけが通用しないことを自覚しているゆえではないか。ロマンティックな出会いから一転、シビアになってしまった妻との関係を取り戻すには、まずは雄介さんが “言い訳”をやめることではないだろうか。ずるずると澄子さんと会っていた時のような、自分自身への言い訳もふくめて……。
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