浮気を正当化しようとした40歳夫の困惑…妻がついにブチ切れた彼の“特異気質”はモラハラなのか
ロマンティックな年越しを経て…
目覚めてベッドを覗くと、素顔の彼女がいた。バスルームに備えてあったアメニティで化粧を落として洗顔したようだ。かわいいなと思いながら寝顔を見ていたら、彼女がパチッと目を開けた。
「やだー、見ないでと言ったのがまたかわいくて。彼女はすごく話も上手で頭がいい感じだったし、仕事にも情熱を傾けているのがわかったので、勝手に論理的で大人の女性だと思っていたけど、寝顔はとにかくかわいかった。それに考えてみれば、前日、彼女が僕とぶつかって泣いていたのは足首の痛みではなく、フラれたせいなんですよね。この人のことを好きになりそうだと思いました」
その日は朝食を一緒にとり、彼女の部屋まで送っていった。住んでいるのも同じ電車の沿線だったから、どれだけ縁があったのか、出会うべくして出会ったと雄介さんが思い込んでも不思議はない。そしてその思いは夏音さんも同じだった。
「その翌日、出勤する彼女を迎えに行きました。電車で踏まれたりしたら大変だからレンタカーを借りて送り迎えしたんです。彼女は遠慮しましたが、僕のせいでケガをしたのだから責任はとらないとと思って」
捻挫だからあとは湿布をして無理をしないことしか治療法はないのだが、年末最後にもう一度、医者に診てもらった。そのころには痛みも薄らいでいたそうだ。
「今思うと、結局、彼女に会いたかっただけなんでしょうね。彼女はそのころ、実家とあまり折り合いがよくなくて、近いのに正月にも実家には帰らないと言うんです。僕は地方出身ですが、帰る気はなかったので、よかったらふたりで忘年会でもしようかと誘いました。すると彼女、『狭い部屋だけど、うちに来ない? お礼代わりに手料理でも』って。これって友だちの範疇なのか、もうつきあっている気持ちになっていいのか、よくわからなかったけど、彼女の誘いは断りたくない。大晦日に来てというのでホイホイ行きました」
おいしいワインとチーズ、ケーキなどいろいろなものを買って彼女の部屋を尋ねると、いい香りが漂っていた。
「ワインを持って行くとは言ってないのに、彼女が作っていたのは牛ホホ肉の煮込み。これがワインにピッタリで。他にも海鮮サラダやかぼちゃのスープなど、レストラン顔負けの料理が並んでいました。デザートは手作りプリン。ケーキとかぶらないところがすごいよね、やっぱりオレたち、最強のバディかもなんて僕が盛り上がったら、彼女は『私たち、知り合ってまだ1週間なのよねえ』としみじみ。でもこういうのも縁だよ縁、と僕はひたすら押しました」
その日は一緒に映画でもと彼はDVDを持って行ったのだが、結局は彼女とずっとしゃべっていて映画を観る時間もなかった。ふたりでいるとおしゃべりが止まらないのだ。
そのまま新年にカウントダウン。午前零時を迎えたとき、どちらからともなくキスをした。あとは勢いで男女の関係になだれこんだ。
「1ヶ月後に僕のアパートが契約更新だったんですよ。そうしたら彼女が、『私の住んでいるところ、広めの2LDKがあいたって大家さんが言うの。一緒に住まない?』と言い出して。渡りに船で越しました」
同棲してから両家の親に挨拶に行った。当時、雄介さんの父親は病気療養中だし、夏音さんは母親と折り合いが悪かったため、「これ以上、親は入れなくていい」とふたりで結論を出し、親同士は会わないまま婚姻届を提出した。
「ただ、僕は彼女の父親とは気が合ったんです。夏音という名前をどうしてつけたのかと尋ねたら、お義父さんが『もともとはクラシック音楽のカノンという曲名からなんだけど、この子が産まれたのは梅雨が明けて夏を感じ始めた日の未明でね。もうじき産まれるはずなのに、なかなか産まれてこない。夜明け直前に外に出たら、ふっと空気の中に夏の音が混じっている気がしたんだ。それで夏の音』と照れながら話してくれたんですよ。詩的でしょう? お義父さんは会社勤めのかたわら詩を書いているような人で、かっこよかったんです。夏音もお父さんのことは大好きだったみたい」
たくさんの偶然とロマンティックなできごとを積み重ねての結婚だった。そしてひとり娘も授かり、ふたりとも仕事にやりがいを感じ、結婚生活もうまくいっていた。
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