日本兵の遺骨収集を巡り東南アジアの大使を脅した右翼の男 その手口を元公安警察官が証言

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 日本の公安警察は、アメリカのCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)のように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。一昨年、『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、戦没者の遺骨収集を巡って右翼の男に脅された某大使について聞いた。

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 太平洋戦争による海外での戦没者(硫黄島、沖縄含む)は約240万人に上る。そのうち、昨年までに回収されたものは128万人。戦後77年も経つのに、半数近い112万人が異国の地で眠っているのである。

 具体的には、激戦地となったパプアニューギニア、パラオ、フィリピン、インドネシア、サモア、ボルネオ、タイ、マレーシアなどで遺骨収集が今も行われている。

徐々に脅す

「日本政府はそれらの国に毎年、助成金を出しています」

 と解説するのは、勝丸氏。公安部で公館連絡担当班に所属していた同氏は、大使館や総領事館との連絡・調整が主な任務で、日頃から大使とは付き合いがあった。

「2010年の話です。太平洋戦争の激戦地となった某国の大使から、『相談したいことがあるから来てください』と連絡がありました。早速、大使館に出かけて話を聞くと、1年半前から右翼団体の男に脅かされている。なんでも、日本が助成金を出しているのに遺骨収集はなかなか進まない。助成金がきちんと使われていないのではないかと、いちゃもんを付けてきたそうです」

 最初男は、大使館に電話を入れて、大使に会わせろと迫ったという。

「大使館の受付は、『ご用件はなんでしょう?』と問うと、男は『オメエなんかに言う必要はねえ』とすごんだそうです。この時は、大使には会わせなかったそうです」

 その後、何度も右翼の男からと思われる無言電話や恫喝めいた電話があったという。

「ある時、男から電話があり、また大使と面会したいと言われました。受付が『ちょっと待ってください』と言うとすぐ電話を切ると、大使館に押しかけて来たそうです。受付が『アポのない方は面会できません』と言うと、『さっきオマエ、大使に会わせろと言うとはいと言ったじゃないか。交通費と時間、どうしてくれるんじゃあ』とすごんだそうです」

 再三の脅しに屈して、大使も面会せざるを得なくなった。

「彼は大使に対して『遺骨収集をちゃんとやらんと、大使館に街宣車を繰り出すぞ。誠意を見せろ』と言ったそうです。この時、男は金銭を要求した可能性がありますが、大使は頑なに、お金は払っていないと否定していました」

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