ソフトバンクが4軍制を導入…“第2の千賀”を生み出すメジャー級「育成システム」の中身

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資格獲得のために受験を優先

 理学療法士の国家試験受験は、キャンプ中の2023年2月19日に行われるため、受験なら途中離脱となるが、球団側もこれは容認。同1月の新人合同自主トレ中は、受験勉強の追い込み時期だが「他の選手よりスタートは遅くなりますけど、徐々に体を慣らせていけばいいので」と福山チーフ。

 これも京大という環境で、他のアマ選手より本格的な練習に取り組んでいない面も考慮した育成プログラムの一環で、水口の実戦登板はまず来年6月ごろの方針。資格獲得のための受験を優先することにも支障がない育成プランが設定されている。

 京大からのプロ入りは、2014年に千葉ロッテ2位指名を受けた田中英祐投手以来、史上2人目、医学部からは初となるプロ入りという異例の経歴だが、その潜在能力を、福山チーフは「“高スペック”。トレーニングを積んで、体重が5キロ、10キロと増せば、155キロくらいは出ます」と語り、2018年のドラフト1位・甲斐野央や同ドラフト2位・杉山一樹ら、同タイプの右腕の名前を挙げ「ポテンシャルは彼らにひけを取らない」という。

 さらに「数年後はセットアッパーとして、ショートイニングでドン、というイメージ」と球団が描くその“理想像”も、水口に伝えたという。卒業論文の内容は投手の肩肘に関する「投球障害」で、2023年1月には卒業試験も控えるが「単位に関しては、たぶん大丈夫」と卒業は“当確”のようだ。

メジャー級の「球団運営」

 三笠GMは、2軍、3軍、4軍の“位置づけ”を、以下のように示した。

【2軍】1軍へのチャレンジと調整を行う選手が中心。
【3軍】2年目以降の育成選手が中心。試合を通して成長を促していく。
【4軍】体作りと、試合経験を積ませることが中心。

 こうした目的に応じて「使い分けになると想定しています」と説明する。メジャーだと、トップチームのメジャーの傘下に、3A、2A、1A、ルーキーと4つのカテゴリーがあり、1Aはレベルに応じてさらに2つに、ルーキーも2~3チームに分かれており、実質は「7軍制」ともいわれるほど、育成の層が細分化されている。

「まだまだ拡大する可能性はあります。まず、1Aレベルの4軍で、アマ時代にケガなどがあったりして、成長し切れていない選手にチャンスを与えて、結果を出せば支配下に上げる。そうした仕組みで、強化を図っていきたい」と三笠GMは語る。

 充実の育成システムから“千賀2世”が生まれる過程を見続けていくのも楽しみだが、他球団の追随を許さない、メジャー級の「球団運営」という観点からも、拡大された育成システムである「4軍制」には、実に興味深い多くの見どころがありそうだ。

喜瀬雅則(きせ・まさのり)
1967年、神戸市生まれ。スポーツライター。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当として阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の各担当を歴任。産経夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。産経新聞社退社後の2017年8月からは、業務委託契約を結ぶ西日本新聞社を中心にプロ野球界の取材を続けている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)、「不登校からメジャーへ」(光文社新書)、「ホークス3軍はなぜ成功したのか」(光文社新書)、「稼ぐ!プロ野球」(PHPビジネス新書)、「オリックスはなぜ優勝できたのか 苦闘と変革の25年」(光文社新書)。

デイリー新潮編集部

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