ソフトバンクが4軍制を導入…“第2の千賀”を生み出すメジャー級「育成システム」の中身
「感動の創造」
2023年から「4軍制」を発足させることを発表したソフトバンク。2011年から「3軍制」による育成に注力し、MLBニューヨーク・メッツと大型契約を結んだ千賀滉大を筆頭に、甲斐拓也、周東佑京ら“成功例”は枚挙にいとまがない。そんなソフトバンクが、4軍制導入という育成の“超拡大路線”に踏み切った狙いを探った。前編に続き、今回は後編をお届けする。【スポーツライター/喜瀬雅則】
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ソフトバンクの2022年は、支配下・育成合わせて104人態勢でスタートした。これを2023年は最大見込みで「122人」にまで拡大。3軍の非公式・練習試合も、2022年の105試合から最大229試合程度まで増やしていく。
3軍は2022年10月に、コロナ禍のため中断されていた韓国遠征を3年ぶりに再開している。これを2023年は複数回に分けて行う予定で調整も進めているという。
そこで、選手1人あたりの試合数について、簡易的な計算式を使って比較してみた。
『総試合数×12÷全選手数=選手1人あたりの試合数』(※注・1試合12人出場と仮定、便宜上投手と野手の区別はつけていない。1軍のオープン戦、練習試合、2軍の教育リーグ、日本選手権、フェニックスリーグは含めていない)
この計算式に基づくと、ソフトバンクが「122人」態勢で3、4軍が「229試合」を行い、1軍、2軍の公式戦が2022年を同数(1軍143、2軍115)とした場合、1人あたり「47.9」試合となるが、これは2022年の1人あたり試合数で、12球団トップだった阪神(43.6)、2位のオリックス(43.0)も大きく上回るものになる。
また、育成選手の人数増に伴い、寮やロッカーの増設もすでに着工済み。ウエートトレーニングの機器や施設も拡張し、2024年以降には「バイオメカニクス」に、投手の球速や球の回転数、打球速度や角度などを測定・分析する「トラッキングシステム」も導入し、最先端のトレーニング環境を構築していく方針だという。三笠杉彦GMは「筑後を最前線のトレーニング環境にしたい」と強調する。
全試合を「オンライン中継」するプラン
さらに、この4軍制の拡大に伴って「会社としてやりたいのは、感動の創造」ともう一つのコンセプトを明かしたのは、代表取締役専務COO兼事業統括本部長・太田宏昭だった。
太田も、三笠とともに、筑後の育成施設の誘致段階から携わっていたキーマン。4軍制発足の会見で太田専務は、2023年で開業8年目を迎える筑後で「ファンに、選手との距離を縮めて、接する機会を増やしていきたい」と、新たなプロジェクトを披露した。
まず、2軍、3軍、4軍の全試合を、球団のオウンドメディアでもある「ホークスTV」を通して、オンライン中継するプランを進めている。
ただ、中継に携わるスタッフも、人数に限りがある。そこで4軍の試合に関しては中継カメラの全自動化を目指していく。カメラの切り替えは、AIによる自動スイッチングを行うことができないかを、今後は継続調査していく方針だが、こうした分野はそれこそ、ソフトバンクという情報通信会社の“お家芸”であり、「オンラインで、見て頂ける機会を増やしていきたい」と太田専務。もちろん、スポンサーも募り、「事業として成り立たせる」とシビアなそろばん勘定も忘れてはいない。
試合がない日でも、屋内練習場にWebカメラを設置しておけば、練習風景をオンライン中継できる。野球ファンにとっては、若手の選手たちが下積みから力をつけ、未来の主力へ育っていく姿を追い続けていくことが、一つの楽しみでもある。
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