常に先んじた技術力で社会の課題に挑む――岡田直樹(フジクラ取締役社長CEO)【佐藤優の頂上対決】

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技術のDNA

佐藤 会社の中でエンジニアの比率はどのくらいですか。

岡田 研究開発部門が15%くらいです。ただ事業部側にも事業開発という分野の人たちがいて、そこを合わせると30%強。さらに営業にも技術系の人がいますから、全体ではもっと多くなります。

佐藤 先般、来日したフランスの人口学者エマニュエル・トッドさんにお話をうかがったのですが、彼はいまの世界はモノが作れる国と作れない国の二つに分かれている、と言うんですね。アングロサクソン系のアメリカやイギリスは、人口の中のエンジニア比率が1桁になっていて、もうモノが作れなくなる、と。

岡田 そうなのですか。

佐藤 一方、ドイツや日本はまだエンジニアの人口比率が高く、モノが作れます。また、GDPでは韓国並みのロシアが、西側諸国がこぞって応援するウクライナに音を上げないのも、モノが作れるからだと分析しています。

岡田 それは面白い見方ですね。

佐藤 それを考えると、フジクラはエンジニアをサポートしている会社として、ますます重要性が高まってきます。

岡田 やはり「ものづくり」を大切にすること、技術力を極めることこそが弊社のDNAだと思いますので、それは徹底していきたいですね。

佐藤 そうした技術力を背景として、今後注力していく分野はどこでしょうか。

岡田 医療、無線、超電導ですね。どれもフジクラの持っている技術をうまく転用する形で事業化を進めていこうと考えています。

佐藤 医療はファイバースコープですか。

岡田 そうですね。それに内視鏡用の極細径カメラモジュールやカテーテルなどがあり、一部はもう商品化されています。

佐藤 無線はどんな装置を作っているのですか。

岡田 これから普及していく5Gの移動通信システムでは、「ミリ波」という極めて高い周波数が使われます。ミリ波は高速大容量ですが、従来のマイクロ波に比べて減衰、劣化しやすいので、通信機器の設計から製造法、材料まで、新しい発想が求められている。弊社では、それに対応した通信デバイスを開発しています。

佐藤 電線から無線へ、ですか。

岡田 電線メーカーからすると、電線がなくなってしまう技術ですから、破壊的なイノベーションなんですよね(笑)。ただそれも、情報通信という弊社の事業領域ですから、何かで参入できないかと考え、取り組んでいるところです。これはまだ数年かかると思いますが。

佐藤 最後の超電導はいかがですか。

岡田 レアアース系高温超電導線材の研究開発を行っていますが、これにはさらに時間がかかります。私どもが一番期待しているのは、それを使った核融合なんです。

佐藤 核融合ができれば、エネルギー問題は抜本的に変わります。

岡田 そうです。核融合は原子力発電と違って、資源の枯渇問題が発生しませんし、核分裂連鎖反応がないので暴走事故も起きません。そしてそれを行うには、高磁場を作り出せる品質の高い超電導線材が必要不可欠なんです。その点、いまある弊社の超電導線材は世界トップの品質です。しかも高温超電導と言って、ヘリウムで冷却しなければならない従来の低温超電導線材と違い、液体窒素で冷却できます。

佐藤 液体窒素ならいくらでも作れます。

岡田 だから非常にインパクトのある製品なのです。

佐藤 私も核融合には大きく期待しています。ただ、なかなか技術が進展しない。それは原子力発電のように兵器化できる物質を生み出さないため、軍産複合体のある国々が熱心ではないからなんですね。

岡田 確かにインターネットをはじめとして、先端的な技術は軍事から始まることが多いですね。

佐藤 それにもう一つ、核融合は石油関係者にとって大変な脅威になります。簡単に言えば、核融合は海水をエネルギーに変える技術ですね。だから海に囲まれた日本にとっては、これから生き残っていくための技術的な要(かなめ)になりうる。いずれ石油も天然ガスも、そしてウランも枯渇しますから、積極的に研究をしたほうがいい。

岡田 その通りですね。この分野でも我々の技術が貢献できるよう注力していこうと思っています。

佐藤 期待しています。是非とも核融合を進展させてください。

岡田直樹(おかだなおき) フジクラ取締役社長CEO
1964年埼玉県生まれ。千葉大学工学部卒。86年藤倉電線(現フジクラ)入社。2008年光ケーブル開発部長、12年同・光ケーブル製造部長、13年ケーブル・機器開発センター長、14年次世代光ケーブル事業推進室長、18年光ケーブルシステム事業部長。20年に常務執行役員となり執行役員COO、取締役COOを経て22年より現職。

週刊新潮 2022年12月29日号掲載

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