常に先んじた技術力で社会の課題に挑む――岡田直樹(フジクラ取締役社長CEO)【佐藤優の頂上対決】

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世界を変える技術

岡田 私は入社以来、ずっと光ケーブルの開発を担当してきましたが、この分野は、従来の技術で競争をしていたのでは海外勢に立ち向かえないという課題があったんですね。

佐藤 技術革新が求められていた。

岡田 その通りです。少しご説明しますと、光ファイバーは外径が250ミクロンです。それは被覆部分を含めた外径で、ガラスの部分は125ミクロン。1ミクロンは千分の1ミリです。

佐藤 ほんとうに髪の毛くらいの太さですね。

岡田 従来はこれを横一列に12本束ねてリボンにしていました。ただ、横に並べて接着しますから、一つの方向にしか曲がらない。またその形状では、ケーブルに入れた際、光ファイバーの密度も低くなってしまうんですよ。

佐藤 確かに実物を見ると、ケーブル内に光ファイバーがぎっしり詰まっているのではなく、空いている部分がありますね。

岡田 そこで光ファイバーを横一列に接着するのではなく、みかんを入れるネットのようにくっ付けてみたのです。こうすればさまざまな方向に曲がりますし、同じ太さのケーブルにたくさんの光ファイバーを入れることができる。逆に言えば、同じ量なら細くできます。

佐藤 発想を変えたのですね。これを岡田社長が考案されたのはいつ頃ですか。

岡田 この構造を考案し、最初に特許出願したのは2006年です。それまで光ファイバーケーブルは、標準的な技術が確立されて以降、変わっていませんでした。

佐藤 どんな瞬間に思いつかれたのですか。

岡田 机の上で、一本一本の光ファイバーをより合わせたり、瞬間接着剤でくっ付けたりしていた時、ふと、みかんネットみたいにすればいいんじゃないかと思いついたんです。

佐藤 その時はどんな気持ちでした?

岡田 これができれば世界が変わるんじゃないかと思いましたね。ただ、同時に本当にできるのかとも思った。

佐藤 どうしてですか。

岡田 量産化が難しそうだったんです。実際にその点は苦労しました。でもこれは部下が一所懸命にやってくれました。出来上がってきた時に、思わず「すごいね、本当にできたね」と言ったら、「岡田さん、できないと思って人にやらせていたんですか」って言い返された(笑)。

佐藤 光景が目に浮かぶようです。いい雰囲気の職場ですね。

岡田 その形状がクモの巣のようにも見えることから、私どもは「スパイダー・ウェブ・リボン(SWR)」と名付け、商標登録しました。さらに、このどの方向にも曲げられるSWRに「ラッピング・チューブ・ケーブル(WTC)」というケーブル化の技術を組み合わせたケーブルを作り出しました。

佐藤 商品化されたのはいつですか。

岡田 2012年です。また製品化と同時に、それを量産化する製造装置も自社で開発しました。これによって製品の優位性が保てます。

佐藤 そこが参入障壁になる。

岡田 この製品のセールスポイントは、どの方向にも曲げられるリボンファイバーであるとともに、この性能を生かして、光ケーブルを究極的に細く軽くできることです。つまり大容量の情報伝送を可能にするだけでなく、材料費の軽減ができるし、輸送費も削減できます。さらには、細く軽いことから、既設の管路や電柱を増設することなく光ケーブルを敷設できるので、施工まで含めた光ネットワーク構築のためのトータルコストを大幅に削減することができます。

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