「日本と違って選手が自立」 ソチ五輪銀・竹内智香がスイスに取び込んでつかんだ“タフさ”(小林信也)

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自由と責任

 スイス代表と行動した経験は、技術・フィジカルだけでなく、根本的で重要な目覚めを与えてくれた。

「日本と違って、選手がすごく自立しています。行動は基本的に自由です。オフの時の車の運転、アルコール、遊び、すべて選手に選ぶ権限が与えられている。私がいた日本代表では、みんなが一緒、横並び。スイスの方が自由でいい。けれど、責任は選手に生じます。成績を出してチームに残れるかどうか。結局は自分でつかみ取らなければいけない」

 いま竹内は若い選手を支援する〈& tomoka〉プロジェクトを運営している。今秋も日本代表の若い4選手とアメリカで合宿をした。

「指導する立場になって、ルールでがんじがらめにする方が楽だってよくわかりました。自由を与えると若い選手は失敗もするしトラブルも起こす。ルールで縛ると運営側は楽、だけど選手の成長にはつながらない。選手は自立してこそ成長する。スイス・チームはそれを教えてくれた。スイスで、タフさと“生きる力”を手に入れた。それが私の強みだと思います」

 仲間たち3人とボードを作る会社も立ち上げた。

「最初は本当にボロボロの小屋を借りて、見よう見まねで作り始めました。私たちの競技は、ほぼ90%の選手がハンドメイドのボードに乗っています。けれど、新しくて性能のいいボードはトップ選手にしか回らない。だから自分で作るしかなかったのです」

 実力を磨くだけでなく、ボードの調達も含めて、勝てる条件を整えることが、世界で勝つスノーボーダーに必須の要素なのだ。他人やチームに依存していたら条件はそろわない。だからこそ竹内は自らヨーロッパに押しかけ、すべての基盤を作った。12年12月、29歳の誕生日にW杯初優勝を飾った。そして14年ソチ五輪パラレル大回転で銀メダルに輝いた。決勝の相手はかつてのチームメート、スイスのパトリツィア・クンマーだった。

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